最終更新:2025-02-01
※備忘録として残すために書いた。
1, 概要
二成分以上の反応の反応経路上の構造の相対電子エネルギーは、エネルギー同士の相互作用による安定化の寄与と構造の歪みによる不安定化の寄与を分けられることを説明するモデルである。歴史に関しての解説は省略する。
数式で表現した場合の一例を以下に示す。
数式は、活性化障壁の相対電子エネルギーは、歪みエネルギー()と基質間の相互作用エネルギー()に分けることが可能であることを示す。
2, わかること
遷移状態に対してASMを用いた解析を行った場合について示す。
他の遷移状態の解析結果と比較することで、以下のことが定量的に判断できる。
- 相互作用による安定化の寄与が同程度の場合、分子構造の歪みの大きさによる遷移状態構造の不安定化の寄与の比較が可能である。
- 素過程が2成分反応とした場合について考える。これは、片方の成分の歪みが他の遷移状態と比較して同程度の場合、もう片方の歪みエネルギーの大小によって、活性化障壁の大きさが変わっていると説明できる。
- 歪みエネルギーが同程度の場合も同様に比較が可能である。
本解析手法とほかの解析手法(Non Covalent Interaction(NCI)の解析等)を組み合わせることで、化学反応に対する知見を深めることが可能である。
補足
- 相互作用エネルギーの分解を行える機能が付いたソフトにAmsterdam Density Functional(ADF)がある。
- 理論としてはSymmetry-adapted perturbation theory (SAPT)がある。
3, Activation Strain Modelを使った解析方法の手順
用途に応じて、遷移状態のみを使う方法とIRCを使う方法がある。
遷移状態を使った場合の解析手順
a, 遷移状態構造を反応物の各分子と対応するように2つに分ける。(Diels-Alder反応ならば、例えばジエンとジエノフィルに分けられる。)
b, 分けた構造に対して各々一点計算を行う。(使う電子状態計算ソフトウェアは任意)
c, 得られた電子エネルギーの和に対して、反応物の電子エネルギーの和を差し引くことで歪みエネルギー()が求められる。
d, 得られた歪みエネルギー()に対して、活性化障壁の値()を差し引くと、相互作用エネルギー()が求められる。
IRCを使った場合の解析手順
遷移状態構造に対して、行った操作をIRC計算で求めた構造すべてに行う。
これを自動で行ってくれるソフトにPyFragがある。
自前で行う場合は、フラグメントに分ける計算を行うために、IRCのstep構造ごとに一点計算用の入力ファイルを大量に作る必要がある。
参考:
- Nat Protoc 2020, 15 (2), 649–667.DOI: 10.1038/s41596-019-0265-0. (ASMのレビュー論文1)
- Angew Chem Int Ed 2017, 56 (34), 10070–10086.DOI: 10.1002/anie.201701486. (ASMのレビュー論文2)
- WIREs Comput Mol Sci 2012, 2 (2), 254–272. DOI: 10.1002/wcms.86. (SAPTを解説した論文)
- https://computational-chemistry.com/top/blog/2017/06/23/distorsion-interaction-model/ (日本語での解説サイト。後ろに英語の参考文献が載っている。)
- J. Comput. Chem. 2019, 40 (25), 2227–2233. DOI: 10.1002/jcc.25871.(PyFragの論文)
- J. Org. Chem. 2020, 85 (15), 9566–9584. DOI:10.1021/acs.joc.0c00575. (活用例。遷移状態構造のみに適用している。)