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制御不能な熱:SPH法で見る「熱暴走」と「気化爆発」のメカニズム

last_modified: 2026-01-09

※生成AIによって生成されたシミュレーションであるため、不正確な部分がある可能性があります。

1. 止まらない温度上昇#

「油を火にかけっぱなしにしてはいけない」とよく言われますが、その物理的な理由をご存知でしょうか? 単に「熱くなるから」だけではありません。ある温度を超えた油は、外部からの加熱を止めても、自ら熱を出し続けて温度が上がり続けるという恐ろしい性質(自己発熱分解)を持っています。

これを 熱暴走 (Thermal Runaway) と呼びます。今回は、この現象を流体力学シミュレーション(SPH法)に熱化学モデルを組み込むことで再現します。


2. 実験:引き返せないポイント(Point of No Return)#

シミュレータの Turn Heater ON を押して加熱を開始し、温度変化を観察してください。

Stage 1: 安定加熱 (25°C 〜 220°C)#

  • 現象: 油(黄色〜オレンジ)は底から温められ、対流によって熱が全体に広がります。
  • 物理: この段階では、熱の出入りは「ヒーターからの入熱」と「対流・伝導による拡散」のみです。ヒーターを切れば、温度上昇は即座に止まります。

Stage 2: 熱暴走開始 (220°C 〜 300°C)#

  • 現象: 画面に ⚠ CRITICAL と表示されます。ここでヒーターを切ってみてください
  • 驚くべきこと: ヒーターを切ったにもかかわらず、温度上昇が止まりません。むしろ加速していきます。
  • 物理: 油の分子が熱分解・酸化反応を始め、**反応熱(自己発熱)**を生み出し始めました。発生した熱がさらに反応を加速させる「正のフィードバックループ」に入っています。

Stage 3: 気化爆発 (> 300°C)#

  • 現象: 粒子が赤から白(蒸気)に変わり、猛烈な勢いで周囲を弾き飛ばします。
  • 物理: 沸点を超えた液体が一瞬で気体に相転移します。体積が数百倍〜千倍以上に膨張するため、これはもはや「沸騰」ではなく**「爆発」**に近い挙動となります。

3. シミュレーションの裏側:マルチフィジックス#

このシミュレーションは、単なる流体計算ではありません。以下の3つの物理法則を連立させて解いています。

  1. 流体力学 (Navier-Stokes):
    • 油の粘性や圧力による動きを計算します。
  2. 伝熱工学 (Heat Transfer):
    • フーリエの法則に基づき、粒子間の熱移動を計算します。
  3. 化学反応論 (Arrhenius Kinetics):
    • これが熱暴走の肝です。反応速度 kk は温度 TT に対して指数関数的に依存します。 k=Aexp(EaRT)k = A \exp\left(-\frac{E_a}{RT}\right)
    • つまり、温度が少し上がると反応速度(発熱量)が劇的に増え、それがさらなる温度上昇を招くのです。

このモデルは、天ぷら油火災だけでなく、リチウムイオン電池の発火事故や化学プラントの安全設計など、現代の防災工学において極めて重要なシミュレーション技術の基礎となっています。


4. 科学的妥当性と「演出」の境界線#

このシミュレーションは、教育および可視化を目的とした**「準物理モデル(Quasi-physical Model)」**です。 現実の物理現象を理解するために、何が「リアル(物理法則通り)」で、何が「演出(近似・省略)」なのかを明確にしておきましょう。

✅ ここは「物理(リアル)」です#

  1. エネルギー保存則:
    • 温度は魔法の数字ではなく、粒子の持つ「熱エネルギー」に基づいて計算されています。ヒーターからの入熱、伝導による移動、反応による発熱はすべてジュール(J)単位で収支が合っています。
  2. アレニウスの式:
    • 「ある温度を超えると急に反応が始まる」のではなく、温度に対して指数関数的に反応速度が上がるという化学反応の基本法則を忠実に実装しています。
  3. 潜熱(Latent Heat):
    • 沸点に達しても一瞬で気化せず、相転移に必要なエネルギー(気化熱)が溜まるまで液体のままでいる挙動を再現しています。

🎨 ここは「演出(デフォルメ)」です#

  1. 定数のスケーリング:
    • 実際の油の比熱や反応熱を使うと、反応が遅すぎたり速すぎたりして、ブラウザ上で見ていて楽しくありません。60FPSで現象が見えるように、時間とエネルギーのスケールを調整しています(無次元化に近い処理です)。
  2. 気化膨張の簡略化:
    • 現実の水蒸気は液体の約1600倍の体積になりますが、画面内でそれをやると全てが吹き飛んでしまいます。このモデルでは、気体粒子が「強い反発力(Expansion Force)」を持つことで、擬似的に体積膨張と爆発圧力を表現しています。
  3. 2次元近似:
    • 本来は3次元の現象を2次元断面で計算しています。

このシミュレータは、厳密な数値予報(「あと何分で爆発するか」)には使えませんが、現象のメカニズム(「なぜ止まらなくなるのか」)を理解するための概念モデルとしては十分な妥当性を持っています。

制御不能な熱:SPH法で見る「熱暴走」と「気化爆発」のメカニズム
https://ss0832.github.io/posts/20260109_thermal_runaway/
Author
ss0832
Published at
2026-01-09
License
CC BY-NC-SA 4.0

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