last_modified: 2026-01-07
生成AIによる自動生成記事に関する免責事項: 本記事は、物理学の標準的な教科書および計算化学の理論に基づき、大規模言語モデル(生成AI)によって作成された解説記事です。数式の導出や歴史的経緯の記述においては、学術的な正確性を期しておりますが、学習や研究への応用にあたっては、必ず標準的な教科書を参照してください。
1. 序論:三体問題の壁
前回の記事では、シュレーディンガー方程式の解法として「変分法」と「摂動論」という強力な近似手法を導入しました。 今回は、これらの手法を最も単純な多電子原子である「ヘリウム原子」に適用し、現代の量子化学計算の基礎となるハートリー・フォック法への道を拓きます。ここでの理解が、GaussianやGAMESSといった計算化学ソフトが内部で何を行っているかを知る鍵となります。
2. ヘリウム原子への挑戦:変分法と摂動論
ヘリウム原子は原子核(電荷 )と2つの電子からなる系です。この系のハミルトニアンには、電子1と電子2の間のクーロン反発項()が含まれており、これが原因で解析解を得ることができません(三体問題)。
しかし、ここで前回学んだ近似法が威力を発揮します。
- 摂動論によるアプローチ: 電子間反発を無視した系(独立した水素様原子2つ)を0次近似とし、反発項を摂動として扱います。1次摂動エネルギーまで計算すると、実験値に近い値が得られます。
- 変分法によるアプローチ: 電子間反発によって電子雲が広がり、原子核の電荷が遮蔽される効果を考慮します。「有効核電荷 」を変分パラメータとしてエネルギーを最小化すると、さらに良い精度が得られます。
重要な事実は、摂動法と変分法の両方が、ヘリウム原子について物理的に妥当で良い結果を与えるということです。これは、近似手法が単なる数合わせではなく、物理的な実態(遮蔽効果など)を捉えていることを示唆しています。
- 計算化学への接続: 実際の分子計算において、非常に高精度な計算が必要な場合(例:結合エネルギーの厳密な評価)、変分的なアプローチ(HF, CI)と摂動的なアプローチ(MP2, MP4)を組み合わせる手法(G4法など)がよく用いられます。
3. 電子のスピンと反対称性
多電子系を考える上で避けて通れないのが「スピン」と「パウリの排他原理」です。
スピン角運動量
電子は質量と電荷に加え、固有のスピン角運動量を持ちます。スピン量子数 であり、磁場中での成分は ( スピン、 スピン)の2つの状態をとります。
波動関数の反対称性
電子は「フェルミ粒子」であり、同種粒子の交換に対して波動関数の符号が反転しなければなりません。 任意の2つの電子(座標 )を入れ替えたとき、波動関数 は以下の性質を満たす必要があります。
この性質(反対称性)を自動的に満たす数学的表現が**スレーター行列式(Slater Determinant)**です。
行列式の性質(2つの行を入れ替えると符号が反転する)により、電子の交換に対する反対称性が保証されます。また、同じ状態に2つの電子が入ると(2つの列が同じになると)、行列式の値は0となり存在できなくなります。これがパウリの排他原理の数学的表現です。
- 計算化学への接続: 量子化学計算ソフトでは、多電子の波動関数をこのスレーター行列式(あるいはその線形結合)として近似表現しています。
4. ハートリー・フォック方程式とSCF法
多電子系の波動関数をスレーター行列式で近似し、変分原理を用いてエネルギーを最小化すると導かれるのがハートリー・フォック(Hartree-Fock)方程式です。
ここで はフォック演算子と呼ばれ、以下の項を含みます。
- 一電子ハミルトニアン(運動エネルギー + 核からの引力)
- クーロン演算子(他の電子からの平均的な静電反発)
- 交換演算子(同じスピンを持つ電子間の量子力学的相関)
SCF法(Self-Consistent Field)
フォック演算子 は、解くべき軌道 自身に依存しています(「他の電子」の分布が決まらないと、演算子が決まらない)。そのため、この方程式は反復的に解く必要があります。
- 初期推測: 波動関数の形を適当に仮定する。
- 場の構築: 仮定した波動関数からフォック演算子を作成する。
- 対角化: 方程式を解き、新しい軌道エネルギーと波動関数を得る。
- 収束判定: 新しい波動関数が前のものと変わらなければ終了。変わっていれば 2 に戻る。
この手続きをSCF(自己無撞着場)法と呼びます。
- 計算化学への接続: Gaussianなどで計算を流した際にログに出力される
SCF DoneやCycle 1, Cycle 2...という表示は、まさにこの反復計算が行われている様子を示しています。
5. 項記号と原子スペクトル
計算によって得られたエネルギー準位は、実験で観測される原子スペクトルと対応づける必要があります。多電子原子の状態を指定するには、個々の電子の量子数ではなく、全角運動量を用いる必要があります。
- 全軌道角運動量 : 電子の軌道角運動量のベクトル和
- 全スピン角運動量 : 電子のスピンのベクトル和
- 全角運動量 : と の相互作用(スピン-軌道相互作用)による合成
これらをまとめたものが**項記号(Term Symbol)**です。
例えば、基底状態のヘリウム原子は (一重項S)となります。実験的に観測されるスペクトル線は、これらの項の間の遷移として理解され、特定の選択律(例:)に従います。
- 計算化学への接続:励起状態計算(TD-DFTやCISなど)を行う際、出力結果がどの電子状態に対応するかを解析するために、この項記号や対称性の知識が不可欠となります。
6. Pythonによる可視化:ヘリウムの変分計算
ここでは、ヘリウム原子の基底状態エネルギーを変分法で求めるPythonスクリプトを紹介します。 試行関数として、有効核電荷 をパラメータに持つ水素様波動関数の積(スレーター行列式の空間部分)を用います。
この試行関数を用いたエネルギー期待値 は解析的に以下の式で与えられることが知られています。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
def helium_energy_variational(z_prime, z_nuclear=2.0):
"""
有効核電荷 Z' を用いたヘリウム原子のエネルギー期待値 (Hartree単位)
E = <T> + <V_ne> + <V_ee>
= (Z')^2 - 2*Z*Z' + (5/8)*Z'
"""
return z_prime**2 - 2 * z_nuclear * z_prime + (5/8) * z_prime
def run_helium_calculation():
# パラメータ範囲の設定
z_primes = np.linspace(1.0, 2.5, 100)
energies = helium_energy_variational(z_primes)
# 最小値の探索
min_idx = np.argmin(energies)
optimal_z = z_primes[min_idx]
min_energy = energies[min_idx]
# 理論上の最適解 (Z_opt = Z - 5/16)
theory_opt_z = 2.0 - 5/16
theory_energy = helium_energy_variational(theory_opt_z)
# 実験値と摂動論(1次)の値
exp_energy = -2.9037
pert_1st_order = -2.75 # (Z^2 - 5/4 Z) 近似なしの摂動
# プロット
plt.figure(figsize=(10, 6))
plt.plot(z_primes, energies, label="Variational Energy E(Z')", color='blue')
# 各種エネルギー準位のライン
plt.axhline(exp_energy, color='black', linestyle='-', label=f"Experimental: {exp_energy:.4f}")
plt.axhline(theory_energy, color='green', linestyle='--', label=f"Variational Limit: {theory_energy:.4f}")
plt.axhline(pert_1st_order, color='red', linestyle=':', label=f"1st Order Perturbation: {pert_1st_order:.4f}")
# 最適点
plt.scatter(theory_opt_z, theory_energy, color='green', zorder=5)
plt.text(theory_opt_z, theory_energy + 0.05, f" Z_eff = {theory_opt_z:.4f}", ha='center')
plt.title("Variational Method for Helium Atom (Shielding Effect)")
plt.xlabel("Effective Nuclear Charge (Z')")
plt.ylabel("Energy (Hartree)")
plt.legend()
plt.grid(True, alpha=0.3)
print(f"Experimental Value: {exp_energy:.4f} Hartree")
print(f"1st Order Perturbation: {pert_1st_order:.4f} Hartree")
print(f"Variational Result: {theory_energy:.4f} Hartree (at Z'={theory_opt_z:.4f})")
print("変分法(遮蔽効果考慮)により、単純な摂動論よりも実験値に近づくことが確認できます。")
run_helium_calculation()
plt.show()
この結果から、有効核電荷 のときエネルギーが最小になることがわかります。これは、一方の電子が他方の電子によって核電荷を遮蔽し、実質的に よりも弱い引力しか感じていないことを定量的に示しています。
7. 結論
ヘリウム原子の解析を通じて、多電子系における電子間相互作用の扱い(変分法・摂動論)と、電子の根本的な性質(スピン・反対称性)を見てきました。現代の計算化学は、これらを基礎としてSCF法によって最適化された軌道を求め、さらに項記号で表されるような励起状態やスペクトルを予測へと応用されています。次回は、いよいよ分子の領域へ踏み込みます。「原子軌道(AO)を混ぜて分子軌道(MO)を作る」というLCAO近似と、化学結合の量子力学的理解について解説する予定です。
参考文献
- Szabo, A., & Ostlund, N. S. “Modern Quantum Chemistry,” Dover Publications.
- Atkins, P., & de Paula, J. “Atkins’ Physical Chemistry,” Oxford University Press.
- マッカーリ・サイモン「物理化学(上)」東京化学同人