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シュレーディンガー方程式と「箱の中の粒子」:計算化学の基礎モデル

last_modified: 2026-01-07

生成AIによる自動生成記事に関する免責事項: 本記事は、物理学の標準的な教科書および歴史的論文の内容に基づき、大規模言語モデル(生成AI)によって作成された解説記事です。数式の導出や歴史的経緯の記述においては、学術的な正確性を期しておりますが、学習や研究への応用にあたっては、必ず標準的な教科書を参照してください。

1. 序論:古典波から量子波へ#

前回の記事では、弦の振動(古典的な波)が波動方程式に従い、境界条件によって自然と「飛び飛びの振動数(量子化)」が現れることを見ました。 量子力学において、電子のような微視的な粒子の振る舞いを記述するのもまた、**シュレーディンガー方程式(Schrödinger Equation, SE)**という波動方程式です。

本稿では、SEの数学的構造を整理し、最も基本的なモデルである「箱の中の粒子」を通して、計算化学の基礎となる概念(演算子、正規化、縮退、モデル化の意義)を解説します。


2. シュレーディンガー方程式の構造#

2.1 物理量は「線形演算子」になる#

古典力学では、位置 xx や運動量 pp は単なる「数値」でした。しかし、量子力学ではこれらは波動関数 Ψ\Psi に作用する**線形演算子(Linear Operators)**として表現されます。

  • 位置演算子: x^=x\hat{x} = x (単に xx を掛ける)
  • 運動量演算子: p^=ix\hat{p} = -i\hbar \frac{\partial}{\partial x} (微分して定数を掛ける)

ここで =h/2π\hbar = h/2\pi はディラック定数です。

2.2 固有値問題としての定式化#

時間に依存しない(定常状態の)シュレーディンガー方程式は、全エネルギーを表すハミルトニアン演算子 H^\hat{H} を用いて、以下の固有値問題として定式化されます。

H^Ψ=EΨ\hat{H} \Psi = E \Psi
  • H^\hat{H}: ハミルトニアン演算子(運動エネルギー T^\hat{T} + ポテンシャルエネルギー V^\hat{V}
  • Ψ\Psi: 波動関数(固有関数)
  • EE: エネルギー固有値

これは、「演算子 H^\hat{H} を関数 Ψ\Psi に作用させた結果が、元の関数の定数倍(EE倍)になるような特別な関数 Ψ\Psi を探せ」という数学的問題です。


3. 波動関数の解釈と不確定性#

3.1 確率論的解釈と規格化#

求められた波動関数 Ψ(x)\Psi(x) は、それ自体が物理的な波(海の波のような実体)ではなく、存在確率の振幅を表すと解釈されます(ボルンの規則)。粒子が位置 xx に見つかる確率密度は Ψ(x)2|\Psi(x)|^2 で与えられます。

粒子は全空間のどこかには必ず存在しなければならないため、全確率の和は1である必要があります。これを**規格化(Normalization)**と呼びます。

Ψ(x)2dx=1\int_{-\infty}^{\infty} |\Psi(x)|^2 dx = 1

3.2 不確定性原理との関係#

「箱の中」のように粒子を狭い領域 Δx\Delta x に閉じ込めると、ハイゼンベルグの不確定性原理(ΔxΔp/2\Delta x \Delta p \ge \hbar/2)により、運動量の不確定性 Δp\Delta p が大きくなります。これは、粒子が完全に静止すること(Δp=0\Delta p=0)ができず、ゼロ点エネルギーを持つことの物理的背景となっています。


4. 1次元の箱の中の粒子#

4.1 モデルの設定と解#

長さ LL の1次元の箱(0xL0 \le x \le LV=0V=0、それ以外で V=V=\infty)を考えます。 境界条件 Ψ(0)=Ψ(L)=0\Psi(0)=\Psi(L)=0 を適用すると、前回の弦の振動と同様に、解は正弦波となります。

Ψn(x)=2Lsin(nπxL)(n=1,2,3,)\Psi_n(x) = \sqrt{\frac{2}{L}} \sin\left(\frac{n\pi x}{L}\right) \quad (n=1, 2, 3, \dots)

エネルギーもまた、整数 nn によって量子化されます。

En=n2h28mL2E_n = \frac{n^2 h^2}{8mL^2}

4.2 証明:平均運動量はゼロ#

箱の中の粒子は激しく動き回っている(運動エネルギー En>0E_n > 0)はずですが、平均運動量 p\langle p \rangle はどうなるでしょうか? 定常状態における期待値の計算を確認します。

p=0LΨp^Ψdx=0L(2LsinnπxL)(iddx)(2LsinnπxL)dx=i2L(nπL)0Lsin(nπxL)cos(nπxL)dx\begin{aligned} \langle p \rangle &= \int_{0}^{L} \Psi^* \hat{p} \Psi dx \\ &= \int_{0}^{L} \left(\sqrt{\frac{2}{L}}\sin\frac{n\pi x}{L}\right) \left(-i\hbar \frac{d}{dx}\right) \left(\sqrt{\frac{2}{L}}\sin\frac{n\pi x}{L}\right) dx \\ &= -i\hbar \frac{2}{L} \left(\frac{n\pi}{L}\right) \int_{0}^{L} \sin\left(\frac{n\pi x}{L}\right) \cos\left(\frac{n\pi x}{L}\right) dx \end{aligned}

被積分関数は 12sin(2nπxL)\frac{1}{2}\sin\left(\frac{2n\pi x}{L}\right) と変形でき、周期関数の積分となるため、この定積分値は 0 になります。 物理的には、「右に進む確率と左に進む確率が等しく、全体として粒子の移動(正味の流れ)はない」ことを意味します。


5. 3次元への拡張と縮退#

5.1 変数分離による拡張#

1次元の箱を3次元の立方体(一辺 LL)に拡張します。ポテンシャルが V(x,y,z)=V(x)+V(y)+V(z)V(x,y,z) = V(x)+V(y)+V(z) のように独立な和で書けるため、波動関数は変数分離可能です。

Ψ(x,y,z)=X(x)Y(y)Z(z)\Psi(x,y,z) = X(x)Y(y)Z(z)

エネルギーは各方向の量子数 (nx,ny,nz)(n_x, n_y, n_z) に依存する和となります。

Enx,ny,nz=h28mL2(nx2+ny2+nz2)E_{n_x, n_y, n_z} = \frac{h^2}{8mL^2} (n_x^2 + n_y^2 + n_z^2)

5.2 縮退(Degeneracy)#

ここで興味深い現象が起きます。例えば、量子数の組み合わせが (1,2,1)(1, 2, 1) の状態と (1,1,2)(1, 1, 2) の状態は、波動関数の形(空間分布)は異なりますが、エネルギー EE は全く同じ値になります。

このように、異なる波動関数が同一のエネルギー固有値を持つことを**縮退(Degeneracy)**と呼びます。これは系の対称性(立方体の対称性)に深く由来しており、分子軌道計算において対称性の高い分子(ベンゼンやC60など)を扱う際に極めて重要な概念となります。


6. 計算化学への接続:なぜ「箱」を学ぶのか?#

「箱の中の粒子」は極端に単純化されたモデルですが、現代の計算化学において以下の点で本質的な示唆を与えてくれます。

6.1 共役系分子の近似(HOMO-LUMOギャップ)#

直鎖状の共役ポリエン(カロテンなど)におけるπ\pi電子は、分子鎖の上を自由に動けますが、分子の外には出られません。これを「1次元の箱の中の電子」と見なす近似(自由電子モデル)があります。 箱の長さ LL が伸びると(共役長が伸びると)、エネルギー準位の間隔(HOMO-LUMOギャップ)は狭くなります(E1/L2E \propto 1/L^2)。これは「共役が伸びるほど吸収波長が長波長シフトする(色が濃くなる)」という実験事実を定性的に正しく説明します。

6.2 節(ノード)とエネルギーの関係#

箱の中の波動関数 sin(nπx/L)\sin(n\pi x/L) を見ると、nn が増えるにつれて「波がゼロになる点(節)」が増え、エネルギーが高くなることがわかります。 これは、複雑な分子軌道(MO)計算においても同様です。一般に**「節の数が多い軌道ほど、運動エネルギーが高く不安定である」**という法則は、結合性軌道と反結合性軌道のエネルギー差を理解する直感的な指針となります。

6.3 基底関数系への展開#

実際の計算化学では、未知の複雑な波動関数を、既知の関数の重ね合わせで表現します。 「箱の中の粒子」の解である正弦波は、数学的に完全な直交系をなしています。実際の分子計算では正弦波の代わりに「ガウス関数」を使いますが、**「扱いやすい単純な関数のセット(基底)で、複雑な電子状態を記述する」**というアプローチは完全に共通しています。


7. Pythonによる可視化:波動関数と確率密度#

1次元の箱の中の粒子の波動関数 Ψ\Psi と、その存在確率密度 Ψ2|\Psi|^2 を可視化します。量子数 nn が上がるにつれて「節」が増える様子を確認してください。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt

class ParticleInBox:
    """
    1次元の箱の中の粒子を可視化するクラス
    """
    def __init__(self, L=1.0):
        self.L = L
        
    def psi(self, n, x):
        """波動関数 Psi_n(x)"""
        # 箱の外(x<0, x>L)は本来0だが、描画用に範囲内で計算
        return np.sqrt(2/self.L) * np.sin(n * np.pi * x / self.L)
    
    def prob_density(self, n, x):
        """確率密度 |Psi|^2"""
        return self.psi(n, x)**2
        
    def energy_factor(self, n):
        """エネルギー準位の相対値 (n^2 に比例)"""
        return n**2

    def plot_states(self, max_n=3):
        x = np.linspace(0, self.L, 500)
        
        fig, axes = plt.subplots(1, 2, figsize=(12, 5))
        
        # 色の準備
        colors = ['tab:blue', 'tab:orange', 'tab:green', 'tab:red']
        
        # 1. 波動関数のプロット
        ax1 = axes[0]
        for n in range(1, max_n + 1):
            # 視認性のため、エネルギー準位に合わせてベースラインをずらす
            baseline = self.energy_factor(n)
            y = self.psi(n, x) + baseline
            
            ax1.plot(x, y, label=f'n={n}', color=colors[(n-1)%len(colors)])
            ax1.axhline(baseline, linestyle=':', color='gray', alpha=0.5)
            
        ax1.set_title("Wave Function $\Psi_n(x)$ (Shifted by Energy)")
        ax1.set_xlabel("Position $x$")
        ax1.set_ylabel("Energy (Arbitrary Units)")
        ax1.set_yticks([n**2 for n in range(1, max_n+1)])
        ax1.set_yticklabels([f'$E_{n}$' for n in range(1, max_n+1)])
        ax1.legend(loc='upper right')

        # 2. 確率密度のプロット
        ax2 = axes[1]
        for n in range(1, max_n + 1):
            baseline = self.energy_factor(n)
            # 確率密度は見やすいようにスケール調整してもよいが、ここではそのまま加算
            y = self.prob_density(n, x) * 2 + baseline # *2は視認性向上のための係数
            
            ax2.plot(x, y, label=f'n={n}', color=colors[(n-1)%len(colors)])
            ax2.fill_between(x, baseline, y, alpha=0.2, color=colors[(n-1)%len(colors)])
            ax2.axhline(baseline, linestyle=':', color='gray', alpha=0.5)

        ax2.set_title("Probability Density $|\Psi_n(x)|^2$")
        ax2.set_xlabel("Position $x$")
        ax2.set_yticks([]) # 右図は形状重視
        
        plt.tight_layout()
        plt.show()

if __name__ == "__main__":
    system = ParticleInBox(L=1.0)
    system.plot_states(max_n=3)
    
    print("--- 縮退の確認 (3次元立方体, n^2の和) ---")
    # 単純な縮退の例を表示
    combinations = {}
    for nx in range(1, 4):
        for ny in range(1, 4):
            for nz in range(1, 4):
                energy_factor = nx**2 + ny**2 + nz**2
                if energy_factor not in combinations:
                    combinations[energy_factor] = []
                combinations[energy_factor].append((nx, ny, nz))
    
    print(f"{'Energy Factor':<15} | {'Degeneracy':<10} | {'Quantum Numbers (nx, ny, nz)'}")
    print("-" * 60)
    for E in sorted(combinations.keys()):
        deg = len(combinations[E])
        states = str(combinations[E])
        print(f"{E:<15} | {deg:<10} | {states}")

8. 結論#

本稿では、シュレーディンガー方程式の基礎と「箱の中の粒子」モデルについて解説しました。

物理量の演算子化: 観測量は演算子固有値として得られる。

量子化: 境界条件がエネルギーの離散化を生む。

計算化学への示唆: 単純な「箱」のモデルは、現実の分子におけるHOMO-LUMOギャップの傾向や、軌道の節の重要性を理解するための強力な思考ツールとなる。

次回は、より現実的な化学結合のモデルである「調和振動子」へと進み、分子の振動スペクトルとの関係を探ります。

参考文献#

  • Atkins, P. W., & de Paula, J. “Atkins’ Physical Chemistry,” Oxford University Press.

  • McQuarrie, D. A. “Quantum Chemistry,” University Science Books.

シュレーディンガー方程式と「箱の中の粒子」:計算化学の基礎モデル
https://ss0832.github.io/posts/20260106_physchem_basic_3/
Author
ss0832
Published at
2026-01-07

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