last_modified: 2026-01-07
生成AIによる自動生成記事に関する免責事項: 本記事は、物理学の標準的な教科書および計算化学の理論に基づき、大規模言語モデル(生成AI)によって作成された解説記事です。数式の導出や歴史的経緯の記述においては、学術的な正確性を期しておりますが、学習や研究への応用にあたっては、必ず標準的な教科書を参照してください。
1. 序論:形ある世界へ
これまでの連載では、水素原子(シュレディンガー方程式の解析解の導出の困難性)、ヘリウム原子(多電子系の近似)、二原子分子(化学結合の原理)とステップアップしてきました。シリーズ最終回となる今回は、3つ以上の原子からなる「多原子分子」を扱います。
多原子分子において最も重要な問いは「なぜ分子はその形になるのか?」ということです。 水(H₂O)はなぜ折れ線型で、二酸化炭素(CO₂)や水素化ベリリウム(BeH₂)はなぜ直線型なのか。この問いに答える鍵となる概念が「混成軌道」と、有機化学で重要な「電子近似」です。
2. 分子の形と混成軌道
シュレーディンガー方程式を解いて得られるs軌道やp軌道は、そのままでは実際の分子の形(結合角)をうまく説明できません。原子は結合を作る際、これらの軌道を混ぜ合わせて新しい軌道を作ります。これを**混成軌道(Hybrid Orbital)**と呼びます。
直線型のBeH₂と折れ線型のH₂Oの違い
この2つの分子は、どちらも3原子分子ですが、形状は対照的です。
-
水素化ベリリウム ():
- Be原子の基底状態は ですが、結合のために電子を1つ昇位させ、 と を混ぜ合わせます。
- これにより、互いに180°反対方向を向く sp混成軌道 が形成されます。
- 結果として、分子は直線型になります。
-
水分子 ():
- O原子は を持ちます。これらを混ぜ合わせて4つの sp³混成軌道 を形成します。
- 4つの軌道は正四面体の頂点方向を向きます。そのうち2つには水素が結合し、残り2つは非共有電子対(孤立電子対)が入ります。
- 原子の並びだけを見れば、折れ線型となります。
VSEPR理論との関係
混成軌道により分子の形が説明できる一方で、より直感的なモデルとしてVSEPR(原子価殻電子対反発)理論があります。「電子対同士は互いに反発し合うため、できるだけ離れようとする」という単純な原理ですが、これは混成軌道理論によって量子力学的な裏付けが与えられていると言えます。
- 計算化学への接続: 量子化学計算で行う「構造最適化(Geometry Optimization)」は、まさにこの電子・核間の反発と引力のバランスが取れ、ポテンシャルエネルギーが最小になる配置を探す作業です。計算結果がVSEPRの予測と一致するのは、背後にある物理が同じだからです。
3. 水分子の混成の微細構造
教科書的な説明では、水分子は単純な 混成(結合角109.5°)と説明されがちですが、実際の結合角は 104.5° です。孤立電子対の反発が強いというVSEPRの説明に加え、量子化学的には以下のように解釈されます。
水の結合性電子対と孤立電子対には異なる混成軌道が使われると考えてみましょう。
- 孤立電子対: 原子核に近いs軌道の成分を多く含みたい(s性大、p性小)。短く太い軌道となり、核を広く覆う。
- 結合性電子対: 結合方向へ伸びるためにp軌道の成分を多く含みたい(s性小、p性大)。細長い軌道となる。
p性が増すと軌道間の角度は90°に近づくため、結合角は109.5°よりも小さくなります。このように、等価な ではなく、役割に応じた柔軟な混成(s-p混合比の変化)が起きているのです。
- 計算化学への接続: 最新の計算化学(NBO: Natural Bond Orbital解析など)を用いると、実際の電子密度から「自然な混成比」を逆算できます。これを見ると、教科書通りの整数比()ではなく、 のような半端な混成状態にあることがわかります。
4. 共役系とヒュッケル法
有機化学、特に二重結合と単結合が交互に並ぶ「共役系」では、分子全体の平面性と特異な安定性が現れます。これを扱うための古典的かつ強力な近似がヒュッケル分子軌道法です。
- 分離近似
共役炭化水素と芳香族炭化水素はpi電子近似(ヒュッケル法)で扱えます。
- 電子: 分子の骨格を形成。局在しており、エネルギー的に深い。
- 電子: 分子平面の上下に広がる。動きやすく、化学反応や物性(色など)の主役。
ヒュッケル法では、電子を無視し、電子のみを取り出してシュレーディンガー方程式を解きます。
ブタジエンの非局在化
1,3-ブタジエン()を考えます。 単純にエチレン(C=C)が2つ繋がっていると考えるよりも、電子が4つの炭素原子全体に広がっている(非局在化している)と考えた方が、計算されるエネルギーが低くなります。
ブタジエンは非局在化エネルギーで安定化しているのです。このエネルギー差こそが、共役系が安定である理由の量子力学的説明です。
- 計算化学への接続: ヒュッケル法は、現代の半経験的分子軌道法(MOPACやxTBなど)の祖先です。「全ての積分を厳密に計算せず、パラメータで置き換える」という思想は、現代の高速計算アルゴリズムにも受け継がれています。
5. Pythonによる可視化:ヒュッケル法ソルバー
単純ヒュッケル法を行列形式で解くPythonコードを紹介します。ここではエチレンとブタジエンのエネルギーを計算し、非局在化エネルギーを導出します。
ヒュッケル法のパラメータ:
- : クーロン積分(ある炭素上の電子のエネルギー、基準値0とする)
- : 共鳴積分(隣り合う炭素間の相互作用、負の値)
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
def solve_huckel(hamiltonian_matrix):
"""
ヒュッケルハミルトニアン行列を対角化し、
軌道エネルギー(固有値)と分子軌道係数(固有ベクトル)を返す
"""
eigenvalues, eigenvectors = np.linalg.eigh(hamiltonian_matrix)
# エネルギーの低い順にソート
idx = np.argsort(eigenvalues)
return eigenvalues[idx], eigenvectors[:, idx]
def analyze_molecule(name, hamiltonian, num_electrons):
energies, coeffs = solve_huckel(hamiltonian)
# 全pi電子エネルギーの計算(占有軌道のエネルギーの和)
# 注: 簡単のためスピン縮退(x2)を考慮して下から詰める
total_energy = 0
electrons_left = num_electrons
occupied_energies = []
for e in energies:
if electrons_left <= 0:
break
# 1つの軌道に最大2電子
count = min(2, electrons_left)
total_energy += count * e
occupied_energies.append((e, count))
electrons_left -= count
print(f"--- {name} ---")
print("Orbital Energies (in units of beta, relative to alpha):")
print(np.round(energies, 4))
print(f"Total Pi Energy: {total_energy:.4f} beta")
return total_energy
# 1. エチレン (C=C)
# 行列: [[0, 1], [1, 0]] (対角成分alpha=0, 非対角beta=1とする単位系)
h_ethylene = np.array([
[0, 1],
[1, 0]
])
e_ethylene = analyze_molecule("Ethylene", h_ethylene, 2)
# 2. 1,3-ブタジエン (C=C-C=C)
# 隣接原子間のみ相互作用あり
h_butadiene = np.array([
[0, 1, 0, 0],
[1, 0, 1, 0],
[0, 1, 0, 1],
[0, 0, 1, 0]
])
e_butadiene = analyze_molecule("1,3-Butadiene", h_butadiene, 4)
# 非局在化エネルギーの計算
# ブタジエンのエネルギー - (エチレンのエネルギー x 2)
delocalization_energy = e_butadiene - (2 * e_ethylene)
print("\n--- Result ---")
print(f"Delocalization Energy: {delocalization_energy:.4f} beta")
print("※ betaは負の値なので、正の係数が出ればエネルギー的に得(安定)していることを意味します。")
print(" (通常 0.472 beta 程度の安定化が得られます)")
# エネルギー準位図の描画
plt.figure(figsize=(8, 5))
levels_ethylene = np.linalg.eigvalsh(h_ethylene)
levels_butadiene = np.linalg.eigvalsh(h_butadiene)
# Plot Ethylene
for e in levels_ethylene:
plt.hlines(e, 0.5, 1.5, colors='blue', linestyles='solid', linewidth=2)
plt.text(1.0, -2.5, "Ethylene\n(Isolated)", ha='center')
# Plot Butadiene
for e in levels_butadiene:
plt.hlines(e, 2.5, 3.5, colors='red', linestyles='solid', linewidth=2)
plt.text(3.0, -2.5, "Butadiene\n(Conjugated)", ha='center')
plt.ylabel("Energy (units of beta)")
plt.title("MO Diagram: Stabilization by Delocalization")
plt.yticks([-2, -1.618, -1, -0.618, 0, 0.618, 1, 1.618, 2],
[r'-2$\beta$', r'-1.62$\beta$', r'-$\beta$', r'-0.62$\beta$', r'$\alpha$', r'0.62$\beta$', r'$\beta$', r'1.62$\beta$', r'2$\beta$'])
plt.grid(axis='y', linestyle='--', alpha=0.5)
plt.show()
この計算から、ブタジエンの全エネルギーは単純なエチレン2つ分よりも低く( は負の値であるため、係数が大きいほどエネルギーは低い)、結合が連なることで系全体が安定化していることが数値的に確認できます。
6. シリーズ結び:量子化学の展望
本シリーズ(physchem_basic_1~10)では、量子力学の基礎から始まり、原子、そして多原子分子の結合論までを駆け足で見てきました。
シュレーディンガー方程式: 全ての出発点。
変分法・摂動論: 解けない式を解くための武器。
LCAO近似: 原子軌道を混ぜて分子軌道を作るアイデア。
混成と共役: 分子の「形」と「安定性」の起源。
これらの知識は、現代の計算化学(DFT計算や分子動力学法)を理解するためのOS(オペレーティングシステム)のようなものです。GaussianやGAMESSといったブラックボックスになりがちなツールも、中身を知れば「基底関数をどう選ぶか」「なぜSCFが収束しないのか」といった問題に対して、物理化学的な洞察を持って対処できるようになります。物理化学の基礎解説シリーズはこれで完結ですが、ここで得た視点は、反応機構の解析や新材料の設計といった、より実践的な化学の探求において強力な羅針盤となるはずです。
参考文献
- Szabo, A., & Ostlund, N. S. “Modern Quantum Chemistry,” Dover Publications.
- マッカーリ・サイモン「物理化学(上・下)」東京化学同人
- Atkins, P., & de Paula, J. “Atkins’ Physical Chemistry,” Oxford University Press.