最終更新:2026-01-05
注意: この記事は生成AIによって自動生成されたものです。内容は T. Shimajiri, S. Kawaguchi, T. Suzuki & Y. Ishigaki, “Direct evidence for a carbon-carbon one-electron -bond”, Nature, 2024, DOI: 10.1038/s41586-024-07965-1 に基づいています。正確な学術的情報は原著論文を参照してください。
1. 結論と本研究の核心的意義
2024年、北海道大学の島尻拓哉、石垣侑祐らの研究グループは、これまで実験的な単離・構造決定が困難とされていた炭素-炭素(C-C)一電子σ結合を持つ化合物の合成と単離に世界で初めて成功した 。
本研究の主要な結論は以下の3点に集約される:
- 一電子結合の単離と可視化: 異常に伸長したC-C単結合を有するヘキサフェニルエタン(HPE)誘導体を一電子酸化することで、C-C原子間に1つの電子のみが共有されたラジカルカチオン塩()を安定な結晶として単離した 。
- 結合距離の実験的決定: X線結晶構造解析により、100 Kにおけるこの一電子結合の距離が 2.921(3) Å であることを特定した 。これは共有結合(約1.54 Å)とファンデルワールス接触(約3.40 Å)の中間に位置する値である 。
- 結合の性質の多面的証明: ラマン分光法による特徴的な振動モード(379 cm )の観測 および近赤外領域(NIR)における電子遷移( nm)の確認 、さらに密度汎関数法(DFT)計算による裏付けを行い、この相互作用が単なる空間的近接ではなく、明確な「結合」であることを実証した 。
本稿では、Linus Paulingが1931年に提唱して以来 、約一世紀にわたり仮説の域を出なかった「炭素間の一電子結合」がいかにして実証されたのか、その巧みな分子設計と物理化学的背景について詳説する。
2. 理論的背景:共有結合の常識と「一電子結合」のミッシングリンク
2.1 共有結合の古典的定義とPaulingの予言
化学結合の概念は、1916年にG. N. Lewisが提唱した「2つの原子が電子対(2電子)を共有する」というモデルによって基礎づけられた 。これはLangmuirによって「共有結合(covalent bond)」と命名され、現代化学の骨格を成している 。 しかし、量子力学の黎明期である1931年、Linus Paulingは水素分子イオン()をモデルとして、**「1つの不対電子が2つの原子核間で共有される結合(one-electron -bond)」**が存在しうることを提唱した 。
2.2 炭素間一電子結合の探索とその困難
Paulingの提唱以降、ホウ素(B-B)やリン(P-P)などのヘテロ原子間においては、一電子結合を持つ化学種の分光学的観測や単離が報告されてきた 。しかし、有機化学の中心元素である炭素(C-C)間の一電子結合に関しては、明確な証拠が得られていなかった 。 その最大の理由は、結合エネルギーの弱さに由来する反応性の高さと不安定性である 。 一般に、C-C一電子結合を持つラジカルカチオン種()は、生成した瞬間に結合開裂を起こしてラジカルとカチオンに解離してしまうか、あるいはさらなる酸化を受けてジカチオンになってしまう傾向が強い 。Cope転位などの中間体としてその存在は示唆されていたものの、物質としてフラスコの中に「取り出す」ことは、長年の未解決問題であった 。
3. 分子設計の戦略:酸化電位の逆転と「殻」による保護
研究チームは、この不安定な化学種を捕獲するために、ヘキサフェニルエタン(HPE)誘導体を用いた極めて論理的な分子設計を行った 。
3.1 酸化還元挙動の制御:「結合伸長」の利用
通常のHPE誘導体において、中性分子から一電子酸化してラジカルカチオン()を得ようとすると、技術的な障壁に直面する。 通常、生成したラジカルカチオンの結合は弱いため即座に解離し、生じたトリチルラジカルの酸化電位()が中性分子の酸化電位()よりも低い場合()、一気に2電子酸化まで進行してしまう(図1a参照) 。
これを回避し、一電子酸化状態で反応を止める(ステップワイズな酸化を実現する)には、中性分子の最高被占軌道(HOMO)レベルを押し上げ、という逆転状態を作り出す必要がある 。 著者らは、**「C-C単結合を極限まで引き伸ばす」**というアプローチを採用した 。結合が伸長すると、結合性軌道と芳香環の相互作用(through-bond interaction)によりHOMOのエネルギー準位が上昇する 。
3.2 化合物1の設計
この戦略に基づき設計されたのが、化合物1である 。
- コア構造: 剛直なアセナフチレン骨格を採用し、2つの反応中心(炭素原子)を適切な距離に配置する 。
- ウイング構造: スピロ型ジベンゾシクロヘプタトリエン(DBCHT)ユニットを導入し、立体障害によって中心のC-C結合を伸長させる 。
- 結合長: 中性状態において、化合物1のC-C結合長は 1.806(2) Å(400 Kでの測定値)に達し、これは通常の単結合(1.54 Å)を大きく上回る「超長」結合である 。
この極端な構造歪みにより、第一酸化電位( V vs SCE)と第二酸化電位( V vs SCE)の分離に成功し、安定な一電子酸化種の生成が可能となった 。
4. 実験結果と考察
4.1 合成と結晶化
化合物1に対し、ジクロロメタン中で1.5当量のヨウ素()を作用させることで、暗紫色の固体としてラジカルカチオン塩 を得た 。この固体は、アセトニトリル/ジエチルエーテルからの再結晶により、X線回折測定に適した単結晶を与えた 。 また、さらに過剰量(3.0当量)のヨウ素を作用させることで、2電子酸化されたジカチオン塩 も単離することに成功しており、酸化段階の制御が完全に達成されていることが示された 。
4.2 結晶構造解析による「結合」の証明
得られた単結晶のX線構造解析の結果は、本研究のハイライトである(図2および表1参照)。
| 化学種 | 状態 | 測定温度 | C1-C2間距離 (Å) | 構造的特徴 | 引用 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 中性 | 100 K | 1.7951(19) | 超長単結合(2電子) | |
| ラジカルカチオン | 100 K | 2.921(3) | 一電子σ結合 | ||
| ジカチオン | 110 K | 3.027(8) | 非結合(静電反発) |
注:中性体1の結合長について、論文中では400 Kで1.806(2) Åという値も報告されている 。
- 距離の評価: ラジカルカチオン で観測された 2.921(3) Å という距離は、中性分子の共有結合よりはるかに長いが、ファンデルワールス半径の和(約3.40 Å)よりは明らかに短い 。これは、2つの炭素原子間に引力的な相互作用が存在することを示している。
- 幾何構造の変化: 中性体1やジカチオン**では比較的対称性の高い構造をとるのに対し、ラジカルカチオン**では、片方のDBCHTユニットが平面性を保ち、もう片方が折れ曲がった(Bent)形状をとる「非対称」な構造が観測された 。
- 電子密度解析: X線回折データから得られた差フーリエマップ( map)において、C1原子とC2原子の間に残存電子密度が明瞭に確認された 。これは電子がこの空間領域に共有されていることの直接的な証拠である 。
4.3 分光学的証拠:ラマン分光と近赤外吸収
構造解析に加え、分光学的な手法によっても結合の性質が裏付けられた。
- ラマン散乱: 単結晶を用いたラマン分光測定(298 K)において、379 cm に強い散乱ピークが観測された 。DFT計算(UM06-2X/6-311+G**レベル)による予測値 390 cm とよく一致しており、これが「C-C一電子結合の対称伸縮振動」に帰属された 。
- 通常のC-C単結合(約1000 cm 前後)や、超長結合を持つ中性体1(589 cm )と比較して著しく低い波数である 。
- UV-Vis-NIR吸収: 溶液および固体の吸収スペクトルにおいて、1405 nm 付近( nm)にブロードな吸収帯が確認された 。これは中性体やジカチオンには存在しないバンドであり、一電子結合性軌道()から反結合性軌道()への遷移として解釈される 。
4.4 理論計算による結合性の評価
密度汎関数法(DFT)を用いた解析も、実験結果を支持している。
- 軌道とスピン: UM06-2X/6-311+G**レベルの計算によると、一電子が占有する分子軌道(-SOMO)は2つの炭素原子間に大きく広がった結合性のローブを持っており、スピン密度はC1 (0.26) と C2 (0.24) に非局在化している 。
- 結合に関与する電子数: 自然結合軌道(NBO)解析では、C1-C2結合には 0.76個の電子 が関与している(0.76 electrons involved in the bond)と算出され、炭素間での電子共有が裏付けられた 。
- 力定数: 力定数の算出には (U)M06-2X/6-31+G** レベルが用いられ、56.8 N m と見積もられた 。これは実験値から推定される力定数(50.8 N m )と良い一致を示し、エタン(445.9 N m )に比べて極めて弱い結合であることが示された 。
5. 議論:結合と非結合の境界領域
本研究の成果は、単に「珍しい分子を作った」ことにとどまらず、化学結合の本質的な理解に対する重要な問いかけを含んでいる。
5.1 結合の強さと「存在」の定義
今回実証されたC-C一電子結合の力定数(約 50-60 N m )は、通常の共有結合の約1/10程度という弱さである 。 これほど弱い相互作用であっても、適切な「殻(シェル)」による保護と電子的な安定化があれば、巨視的な結晶として取り出し、室温下で一定期間保存できることが証明された 。これは、「結合」と「分子間相互作用」の境界線が、環境や分子設計によって制御可能であることを示唆している。
5.2 メタルフリー・スピントロニクスへの示唆
炭素原子のみで構成された骨格で、不対電子を安定に保持し、かつその電子が2中心間で共有されているという事実は、有機磁性材料や量子情報科学の観点からも興味深い。スピンが局在化したラジカルと、非局在化した結合の中間状態を自在に設計できる可能性を示している 。
6. 結論の再提示と今後の展望
結論のまとめ
Shimajiriらは、分子内コア-シェル戦略と結合伸長による酸化電位制御を駆使し、歴史的難題であった「炭素-炭素一電子結合」の単離と構造解析に成功した。
- 実験的に決定された結合長 2.921(3) Å(100 K)は、この結合が共有結合と非共有結合の中間的な性質を持つことを物理量として確定させた 。
- ラマン分光およびNIR分光による特性評価は、今後の類似化合物探索における重要な指針となるフィンガープリントを提供した 。
独自の視点による発展的予測:超高感度「ソフトフォース」センサーへの応用
※以下の内容は、本記事の著者による独自の予測・提案であり、参考文献(Shimajiri et al.)に記載された実験事実ではありません。
本研究で明らかにされた一電子結合は、極めて小さな力定数(~50 N/m)を持つ。これは、外部からのわずかな物理的刺激(圧力、せん断力、温度変化)や電場に対して、結合長や電子状態が敏感に応答する可能性を示唆している。
予測:可逆的結合伸縮を利用したピエゾクロミック・磁気スイッチ この「柔らかい」結合を持つ結晶やポリマー材料を作成すれば、微弱な圧力を加えることで結合距離(2.9 Å)が短縮し、それに伴ってSOMO-LUMOギャップが変化(NIR吸収のシフト)したり、磁気的性質(スピンの相互作用)が変調したりする新しいセンシング材料が開発できるのではないかと考えられる。 通常、共有結合を切断・形成するには大きなエネルギーが必要だが、この一電子結合系は「結合したまま距離が伸縮する」という、バネのような挙動(呼吸する結合)を示す可能性がある。これを応用すれば、生体組織の微細な動きを検知するセンサーや、外部応力によって導電パスが形成される自己修復性導電材料など、従来の強固な共有結合材料では実現できない「動的機能性マテリアル」への道が開かれるかもしれない。
参考文献
- T. Shimajiri, S. Kawaguchi, T. Suzuki & Y. Ishigaki, “Direct evidence for a carbon-carbon one-electron -bond”, Nature, 2024, DOI: 10.1038/s41586-024-07965-1.
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