最終更新:2026-01-05
注意: この記事は生成AIによって自動生成されたものです。内容は Takumi Oishi, Leonardo I. Lugo-Fuentes, Yichuan Jing, J. Oscar C. Jimenez-Halla, Joaquin Barroso-Flores, Masaaki Nakamoto, Yohsuke Yamamoto, Nao Tsunojibe and Rong Shang, “Proton to hydride umpolung at a phosphonium center via electron relay: a new strategy for main-group based water reduction”, Chem. Sci. 2021, 12, 15603 (DOI: 10.1039/d1sc05135k) に基づいています。正確な学術的情報は原著論文を参照してください。
1. 結論と本研究の核心的意義
2021年、広島大学の尚栄(Rong Shang)および大石拓海(Takumi Oishi)らによって報告された本研究は、遷移金属を用いない「メタルフリー」な条件下において、水を常温で速やかに還元し、水素分子()を生成する新しい分子システムを確立した重要な成果である [cite: 1, 9]。
本研究の主要な結論は以下の3点に集約される:
- 新規FLPシステムの構築: オルトフェニレン基で連結されたビス(ボラン)-ホスフィン分子(1b)を設計・合成した。この分子は、2つのルイス酸(ボラン)と1つのルイス塩基(ホスフィン)が近接した独特の幾何構造を有する [cite: 96, 97]。
- 常温での水還元反応: 化合物1bは常温において水と化学量論的に反応し、定量的かつ瞬時に水素ガス()とホスフィンオキシド(3)を生成することが実証された。重水を用いた実験により、発生した水素の由来が完全に水分子であることが確認されている [cite: 117, 120]。
- 電子リレーによる極性転換(Umpolung): 計算化学および低温NMR実験により、反応機構の核心が「電子リレー」にあることが解明された。ホスホニウム中心を介して、水分子由来のプロトン()が電子を受け取り、ヒドリド()へと極性転換(Umpolung)されることで、水素分子の形成が可能となった [cite: 19, 97]。
本稿では、原著論文の記述に基づき、この反応がなぜ革新的であるのか、その理論的背景と詳細なメカニズムについて解説する。
2. 理論的背景:典型元素による水分解の難しさ
2.1 遷移金属と典型元素の対比
持続可能なエネルギー社会の実現に向け、水分解による水素製造は極めて重要なプロセスである。従来、この反応は遷移金属中心での酸化安定的付加を経て進行するのが一般的である。
- 遷移金属の機構: 電子豊富な金属中心が水分子の酸素から電子を受け取り、プロトンへ供与することで金属ヒドリド(M-H)を形成する。その後、もう一つのプロトンと結合してを放出する [cite: 31]。
- 典型元素の課題: 一方、典型元素(pブロック元素)を用いた場合、水分子のO-H結合を不均一開裂(とに解離)させることは比較的容易であるが、そこからを放出させる段階が極めて困難であった。生成する典型元素-水素結合(E-H)の反応性が低く、また立体障害等の要因により、反応が活性化段階で停止してしまうためである [cite: 33, 34]。
2.2 フラストレート・ルイス対(FLP)の限界と突破口
嵩高いルイス酸とルイス塩基のペアを用いる「フラストレート・ルイス対(FLP)」は、小分子活性化において強力なツールとなる。FLPを用いれば水の不均一開裂は容易に進行し、塩基がプロトンを捕捉し、酸が水酸化物を受け取る [cite: 36, 37]。 しかし、**「捕捉したプロトン()をいかにしてヒドリド()に変換し、水素()として脱離させるか」**という還元プロセスが未解決の課題として残されていた。過去にシリレン(低原子価ケイ素)を用いた例があるが、これはシリレン自体が高い還元力を持つ特殊なケースであった [cite: 93]。
本研究の1bは、高原子価の典型元素化合物(ホスフィンとボラン)のみを用い、分子内での巧みな電子移動によってこの「プロトンからヒドリドへの変換」を実現した点に新規性がある。
3. 分子設計と合成戦略
著者は、反応の中心となる分子として、剛直なオルトフェニレン骨格に2つのボラン部位と1つのホスフィン部位を導入した化合物(1b)を設計した。
3.1 構造的特徴
- リンカー: オルトフェニレン基を用いることで、ルイス酸(B)とルイス塩基(P)の位置関係を固定し、協奏的な反応場を提供する [cite: 104]。
- ルイス酸部位: 9-BBN(9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナン)骨格を採用。適度な立体障害と高いルイス酸性を両立させている [cite: 106, 111]。
- ルイス塩基部位: フェニル基を持つホスフィンを採用。
3.2 合成ルート
出発物質であるビス(2-ブロモフェニル)(フェニル)ホスフィンから、以下の手順で合成された [cite: 105, 106]。
- ボリル化: パラジウム触媒を用いたMiyaura-Ishiyamaボリル化により、ピナコラートボラン誘導体(1a)を合成(収率45%)。1aは空気中で安定な無色結晶である。
- 置換基変換: 1aに対し、Wagnerの方法に従ってで還元後、1,5-シクロオクタジエン(COD)存在下で反応させることで、ピナコール基を9-BBN基に変換し、目的の1bを得た(収率35%)。
1bの NMRシグナルは79.2 ppmに観測され、これはホスフィン部位からの分子内配位がない、高いルイス酸性を持つボラン中心であることを示唆している [cite: 109, 111]。
4. 実験結果:常温での水還元反応
4.1 反応の進行と生成物の同定
化合物1bのトルエン溶液に対し、室温で水を添加すると、激しいガスの発生が観測された [cite: 117]。
- 水素の確認: 反応混合物の NMRにおいて、4.47 ppmにに特徴的なシングレットシグナルが観測された [cite: 118]。
- 重水実験: を用いた場合、 NMRにおいてのみが検出された。これは、発生した水素原子の双方が水分子由来であり、溶媒や配位子のプロトン引き抜きによるものではないことを証明している [cite: 119, 120]。
- 副生成物: 反応後、ホスフィンオキシド誘導体(3)が収率97%で単離された。3のX線結晶構造解析からは、P-O結合(1.532 Å)の形成と、酸素原子からボランへの配位(B-O距離 1.633 Å)が確認された [cite: 121, 168]。
4.2 反応の特異性
対照実験として、単なるトリフェニルホスフィン()とトリシクロヘキシルボラン()を混合して加熱しても、水素発生は認められなかった [cite: 204]。このことから、1bにおける「ホスフィンと2つのボランが近接した剛直な骨格」が反応進行に不可欠であることがわかる。
5. 反応機構の解明:電子リレーと極性転換
本研究の最も興味深い点は、どのようにして水分子のを(ヒドリド)に変えたのかというメカニズムにある。著者らはDFT計算および低温NMR実験により、以下の詳細な経路を提唱している [cite: 215]。
5.1 反応の初期段階:活性化
- 配位(H1): 水分子がまず片方のボラン原子に配位する。
- 脱プロトン化(H2): 近接するホスフィン(P)が塩基として働き、ボランに配位した水分子からプロトンを引き抜く。これにより、**ホスホニウムカチオン()とボレートアニオン()**が形成される。
- この中間体(3-I)は、-80°Cでの低温NMR実験において、 NMRのダブレットシグナル()として実際に観測された [cite: 208]。
5.2 鍵段階:電子リレーとヒドリド移動
ここからが本システムの真骨頂である。通常、ホスホニウムのプロトンは酸性度が高く、そのままでは還元されにくい。しかし、本系では以下のプロセスが進行する。 3. 求核攻撃とヒドリド生成(TSH2 -> H3): ボレート上の水酸基()の酸素原子が、電子不足になったホスホニウム中心(P原子)に対して求核攻撃を行う。 4. 電子リレー: 酸素からリンへの電子流入に伴い、P-H結合の電子対が押し出される形で、プロトン()が「ヒドリド()」としての性質を帯び、もう一方の空のボラン中心へと移動する [cite: 216, 294]。
このプロセスについて、NBO解析(自然結合軌道解析)における電荷の変化が明確な証拠を提供している。
- リン原子の電荷は正に増加(酸化)し、一方で移動する水素原子の電荷は減少(還元)している [cite: 218]。
- つまり、電子は「酸素 () → リン () → 水素 ()」へとリレーされ、結果としてがへと極性転換(Umpolung)されたのである [cite: 97]。
5.3 最終段階:水素発生
- 水素カップリング(H4 -> 3): 生成したB-Hヒドリドと、残存するO-Hプロトン(あるいは系内のプロトン源)が近接し、容易に反応して水素分子()が脱離する。
- 最終的に、酸素原子を取り込んだホスフィンオキシド(3)が生成して反応が完結する。この反応全体は、強力なP=O結合形成(および水素発生)に駆動され、自由エネルギー変化 kcal/mol の発熱反応である [cite: 217]。
6. 考察と化学的意義
6.1 メタノールとの反応性比較
興味深いことに、水ではなくメタノール()を用いた場合、反応は途中段階で停止する。計算化学によると、結合の開裂までは進行するものの、その後のメタン()生成に必要な障壁が非常に高い(58.4 kcal/mol)ためである [cite: 289]。これは、本システムが水素生成()に特異的に適したエネルギー地形を持っていることを示唆している。
6.2 犠牲試薬としてのホスフィン
本反応は触媒的ではなく、ホスフィンが酸化されてホスフィンオキシドになる化学量論反応である。これは一見欠点に見えるが、還元剤(ヒドリド源など)を外部から加えることなく、**「水自身を電子源として水素を取り出す」**という点で非常にユニークである。ホスフィンはここで、塩基として働くだけでなく、酸素原子の受容体(O-atom acceptor)として機能し、反応の熱力学的な駆動力を提供している [cite: 292]。
7. 結論の再提示と今後の展望
結論
OishiとShangらの研究は、オルトフェニレン架橋ビス(ボラン)-ホスフィンを用いることで、金属を一切使用せずに水を還元し、水素を製造できることを示した。そのメカニズムは、ホスホニウム中心を経由した「電子リレー」によるプロトンのヒドリドへの極性転換という、主族元素化学における新しい概念に基づくものである。
独自視点による発展的予測:触媒サイクルへの展開可能性
本研究の反応は現在、ホスフィン()がホスフィンオキシド()へと不可逆的に酸化されることで完結している。これが実用的な水素製造プロセスとなるための最大の障壁は、その化学量論性にある。
予測:電気化学的還元またはシラン還元とのカップリングによる触媒化 今後の発展として、生成したホスフィンオキシド(3)を系中で再生するサイクルの構築が期待される。 例えば、クロロシラン類や適切な還元剤、あるいは電気化学的な手法を用いて、温和な条件下で 結合を に還元することができれば、**「水を原料とし、電力または安価な還元剤をエネルギー源とする、メタルフリー触媒的水素発生システム」**へと進化させることが可能である。 また、この「電子リレーによるヒドリド生成」の概念は、水還元にとどまらず、の還元(ギ酸やメタノールの合成)や、アンモニア合成などの他の小分子変換反応においても、プロトン共役電子移動(PCET)の新たな制御法として応用される可能性を秘めている。
参考文献
- [cite: 1] T. Oishi, L. I. Lugo-Fuentes, Y. Jing, J. O. C. Jimenez-Halla, J. Barroso-Flores, M. Nakamoto, Y. Yamamoto, N. Tsunojibe and R. Shang, Chem. Sci., 2021, 12, 15603-15608. (原著論文)
- [cite: 9] 原著論文 Title/Author 参照.
- [cite: 19] 原著論文 “unprecedented multi-centered electron relay mechanism” 参照.
- [cite: 31] 原著論文 “heterolytic O-H bond cleavage… oxidative addition” 参照.
- [cite: 33] 原著論文 “p-block E-H bond is usually less reactive” 参照.
- [cite: 34] 原著論文 “favor the activation product instead of liberation of dihydrogen” 参照.
- [cite: 36] 原著論文 “Water activation by Frustrated Lewis Pair” 参照.
- [cite: 37] 原著論文 FLPによる脱プロトン化の説明参照.
- [cite: 93] 原著論文 Driessらのシリレンを用いた例 (ref 45) 参照.
- [cite: 96] 原著論文 “instantaneously and quantitatively reduce water” 参照.
- [cite: 97] 原著論文 “umpolung of a proton… via electron relay” 参照.
- [cite: 104] 原著論文 “rigid and pi-rich aryl linker” 参照.
- [cite: 105] 原著論文 Scheme 1 および合成法参照.
- [cite: 106] 原著論文 9BBN誘導体への変換参照.
- [cite: 109] 原著論文 11B NMR (79.2 ppm) 参照.
- [cite: 111] 原著論文 “highly Lewis acidic borane center” 参照.
- [cite: 117] 原著論文 “vigorous evolution of gas” 参照.
- [cite: 118] 原著論文 1H NMR (4.47 ppm) 参照.
- [cite: 119] 原著論文 D2O実験参照.
- [cite: 120] 原著論文 “both hydrogen atoms… are from the water” 参照.
- [cite: 121] 原著論文 Phosphine oxide 3 の収率参照.
- [cite: 168] 原著論文 P-O, B-O 結合距離参照.
- [cite: 204] 原著論文 PPh3/BCy3 コントロール実験参照.
- [cite: 208] 原著論文 低温NMR (-80C) での中間体観測参照.
- [cite: 215] 原著論文 Computational investigations セクション参照.
- [cite: 216] 原著論文 TSH2 および H3 への変換参照.
- [cite: 217] 原著論文 エネルギーダイアグラムおよび発熱量参照.
- [cite: 218] 原著論文 NBO charge analysis 参照.
- [cite: 289] 原著論文 Methanol 反応のエネルギー障壁参照.
- [cite: 292] 原著論文 Conclusions “phosphine oxide as the sole by-product” 参照.
- [cite: 294] 原著論文 “facilitate a hydride transfer to the 2nd borane” 参照.
