最終更新:2025-12-30
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序論:第五の階層への到達
密度汎関数法(DFT)における近似の精度向上は、John Perdewが提唱した「ヤコブの梯子」になぞらえられる。局所密度近似(LDA)、一般化勾配近似(GGA)、Meta-GGA、そしてHartree-Fock(HF)交換を混合した混成汎関数(Hybrid Functionals)へと続くその階段の最上段、第五の階層に位置するのが**二重混成汎関数(Double-Hybrid Density Functionals, DHDFs)**である。
従来の混成汎関数(B3LYPやPBE0など)が「交換エネルギー」のみをHF理論と混合していたのに対し、二重混成汎関数は「相関エネルギー」の一部をも波動関数理論、具体的には**二次Møller-Plesset摂動論(MP2)**で置き換える。 一般的な形式は以下のように記述される。
ここで、 はHF交換の混合率、 はPT2(摂動論的相関)の混合率である。 このアプローチの最大の利点は、非占有軌道(仮想軌道)の情報を用いることで、DFTが苦手とする分散力(ファンデルワールス力)や長距離の電子相関を自然に取り込める点にある。一方で、計算コストはMP2と同様に系サイズ に対して でスケールするため、通常のDFT()よりも計算負荷は増大する。
歴史的背景:Truhlarの着想とGrimmeの実用化
二重混成汎関数の概念的な起源は、2004年にDonald G. Truhlarらが提案したMC3BB(Multi-Coefficient correlation method based on Becke88-Becke95)にある [Zhao04]。彼らはDFTとMP2のエネルギーを線形結合することで熱化学精度を向上させる手法を模索していた。
しかし、現代的な意味での二重混成汎関数を確立したのは、2006年のStefan Grimmeである。彼はB2PLYP汎関数を提案し、Kohn-Sham軌道を用いてMP2相関エネルギーを計算し、それをDFTの相関と混合する自己無撞着な枠組みを整備した [Grimme06]。B2PLYPの成功により、この分野は爆発的に発展し、その後、スピン成分ごとのスケーリング(SCS/DSD)や長距離補正を取り入れた高精度汎関数が次々と開発された。
主要な二重混成汎関数辞書
以下に、Gaussian 16やQ-Chem 6.0などの主要な量子化学ソフトウェアで利用可能な代表的二重混成汎関数を分類・解説する。各項目の末尾に原著論文を示す。
1. 第一世代(GrimmeのB2PLYPファミリー)
MP2相関を単純に一定割合で混合する、最も基本的な形式。
B2PLYP
- 概要: 最初の実用的な二重混成汎関数。B88交換、LYP相関、HF交換、MP2相関を組み合わせている。
- パラメータ: (53% HF交換), (27% MP2相関)。
- 特徴: B3LYPに比べて原子化エネルギーや反応障壁の精度が大幅に向上。
- 文献: [Grimme06] S. Grimme, J. Chem. Phys. 124, 034108 (2006).
mPW2PLYP
- 概要: B2PLYPの交換項を修正されたPerdew-Wang (mPW) 交換に置き換えたもの。
- パラメータ: , 。
- 特徴: 弱い相互作用や反応障壁においてB2PLYPよりも若干優れた性能を示す。
- 文献: [Schwabe06] T. Schwabe and S. Grimme, Phys. Chem. Chem. Phys. 8, 4398 (2006).
2. スピン成分スケーリング型(DSD / SCS)
MP2相関エネルギーを「同スピン成分(Same-Spin, SS)」と「異スピン成分(Opposite-Spin, OS)」に分け、それぞれに異なる係数を掛けることで精度を高める手法(Double Spin-Dependent)。
B2GP-PLYP
- 概要: “Gershom-Pople” パラメータセットを用いたB2PLYPの改良版。
- パラメータ: , 。
- 特徴: B2PLYPよりもHF交換とMP2相関の割合が高く、反応障壁の記述に優れる。
- 文献: [Karton08] A. Karton, A. Tarnopolsky, J.-F. Lamère, G. C. Schatz, and J. M. L. Martin, J. Phys. Chem. A 112, 12868 (2008).
DSD-PBEP86
- 概要: PBE交換とP86相関をベースに、DSDアプローチを採用。
- 特徴: 分散力補正(-D3BJなど)と組み合わせることで、GMTKN30 などのベンチマークにおいてトップクラスの性能を記録した。
- 文献: [Kozuch11] S. Kozuch and J. M. L. Martin, Phys. Chem. Chem. Phys. 13, 20104 (2011).
DSD-PBEPBE
- 概要: DSD-PBEP86の相関項をPBE相関に変更したもの。
- 文献: [Kozuch13] S. Kozuch and J. M. L. Martin, J. Comput. Chem. 34, 2327 (2013).
3. パラメータフリー・理論主導型
経験的なフィッティングを避け、物理的な断熱接続モデルに基づいて係数を決定した汎関数。
PBE0-DH
- 概要: PBE0の二重混成版。パラメータを理論的に決定。
- パラメータ: , ()。
- 文献: [Bremond11] E. Brémond, E. Goll, S. Jana, P. Werner, and C. Adamo, J. Chem. Phys. 135, 024106 (2011).
PBE-QIDH
- 概要: Quadratic Integrand Double-Hybrid。断熱接続被積分関数を二次関数ではなく三次関数などでモデル化したもの。
- パラメータ: , ()。
- 文献: [Bremond14] E. Brémond, J. C. Sancho-García, A. J. Pérez-Jiménez, and C. Adamo, J. Chem. Phys. 141, 031101 (2014).
PBE0-2
- 概要: PBE0の係数を用いた二重混成のバリエーション。
- 文献: [Chai13] J.-D. Chai and S.-P. Mao, Chem. Phys. Lett. 576, 120 (2013).
4. メタGGA・長距離補正型
Meta-GGA(運動エネルギー密度依存)や長距離補正(Range-Separated)を取り入れた、現代の最先端汎関数。
PTPSS-D3
- 概要: TPSS(Meta-GGA)をベースにした二重混成。
- 特徴: メタGGAの情報量とMP2を組み合わせることで、非常に高い汎用性を持つ。
- 文献: [Goerigk11] L. Goerigk and S. Grimme, J. Chem. Theory Comput. 7, 291 (2011).
PWPB95-D3
- 概要: ハイブリッドMeta-GGAであるPW6B95をベースに、異スピンMP2相関のみを混合(SCS法の一種)。
- 特徴: 異スピンMP2のみを使うため計算コストを低減しつつ、精度はDSD系に匹敵する。
- 文献: [Goerigk11] L. Goerigk and S. Grimme, J. Chem. Theory Comput. 7, 291 (2011).
ωB97X-2
- 概要: 長距離補正(ωB97X)に二重混成を組み合わせたもの。
- 特徴: 電荷移動励起やリドベルグ状態など、長距離補正が必要な系で威力を発揮する。
- 文献: [Chai09] J.-D. Chai and M. Head-Gordon, J. Chem. Phys. 131, 174105 (2009).
ωB97M(2)
- 概要: 長距離補正、メタGGA、二重混成のすべてを統合し、16個のパラメータを入念に最適化した汎関数。
- 特徴: 巨大なベンチマークセットにおいて、既存のほぼすべての汎関数を凌駕する驚異的な精度(WTMAD2 2.2 kcal/mol)を達成。「究極の汎関数」の一つとされる。
- 文献: [Mardirossian14] N. Mardirossian and M. Head-Gordon, J. Chem. Phys. 140, 18A527 (2014).
LS1DH-PBE
- 概要: 長距離補正を用いた二重混成汎関数の一種。
- 文献: [Toulouse11] J. Toulouse, K. Sharkas, E. Brémond, and C. Adamo, J. Chem. Phys. 135, 101102 (2011).
5. xDHファミリー
XYG3
- 概要: “Xu-Doubly Hybrid” と呼ばれる独自のアプローチ。B3LYP軌道を用いてMP2エネルギーを計算し、B3LYPエネルギーと線形結合する。
- 特徴: 通常の二重混成とは異なり、変分的な自己無撞着計算を行わず、post-SCF的にエネルギーを算出する。
- 文献: [Zhang09] Y. Zhang, X. Xu, and W. A. Goddard III, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 106, 4963 (2009).
XYGJ-OS
- 概要: XYG3の異スピン(Opposite-Spin)成分のみを用いることで計算を高速化したもの。
- 文献: [Zhang12] I. Y. Zhang, X. Xu, Y. Jung, and W. A. Goddard III, J. Phys. Chem. Lett. 3, 1349 (2012).
結論
二重混成汎関数は、計算コストの壁()を許容できる範囲において、post-HF法が表現可能な範囲で高い精度を与える。 初期の B2PLYP [Grimme06] はその有用性を広く知らしめ、現在では DSD-PBEP86 [Kozuch11] や ωB97M(2) [Mardirossian14] といった、スピン依存性や長距離補正を取り込んだ高度な汎関数が提案されている。
参考文献
- [Zhao04] Y. Zhao, B. J. Lynch, and D. G. Truhlar, J. Phys. Chem. A 108, 4786 (2004).
- [Grimme06] S. Grimme, J. Chem. Phys. 124, 034108 (2006).
- [Schwabe06] T. Schwabe and S. Grimme, Phys. Chem. Chem. Phys. 8, 4398 (2006).
- [Karton08] A. Karton, A. Tarnopolsky, J.-F. Lamère, G. C. Schatz, and J. M. L. Martin, J. Phys. Chem. A 112, 12868 (2008).
- [Kozuch11] S. Kozuch and J. M. L. Martin, Phys. Chem. Chem. Phys. 13, 20104 (2011).
- [Kozuch13] S. Kozuch and J. M. L. Martin, J. Comput. Chem. 34, 2327 (2013).
- [Bremond11] E. Brémond, E. Goll, S. Jana, P. Werner, and C. Adamo, J. Chem. Phys. 135, 024106 (2011).
- [Bremond14] E. Brémond, J. C. Sancho-García, A. J. Pérez-Jiménez, and C. Adamo, J. Chem. Phys. 141, 031101 (2014).
- [Chai13] J.-D. Chai and S.-P. Mao, Chem. Phys. Lett. 576, 120 (2013).
- [Goerigk11] L. Goerigk and S. Grimme, J. Chem. Theory Comput. 7, 291 (2011).
- [Chai09] J.-D. Chai and M. Head-Gordon, J. Chem. Phys. 131, 174105 (2009).
- [Mardirossian14] N. Mardirossian and M. Head-Gordon, J. Chem. Phys. 140, 18A527 (2014).
- [Toulouse11] J. Toulouse, K. Sharkas, E. Brémond, and C. Adamo, J. Chem. Phys. 135, 101102 (2011).
- [Zhang09] Y. Zhang, X. Xu, and W. A. Goddard III, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 106, 4963 (2009).
- [Zhang12] I. Y. Zhang, X. Xu, Y. Jung, and W. A. Goddard III, J. Phys. Chem. Lett. 3, 1349 (2012).
