最終更新:2025-12-29
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序論:GGAからMeta-GGAへの飛躍
密度汎関数法(DFT)において、交換相関エネルギー汎関数の精度向上は、Kohn-Sham理論の実用性を左右する中心的課題である。1990年代に確立された一般化勾配近似(GGA)、特にPBE(Perdew-Burke-Ernzerhof)汎関数は、局所スピン密度近似(LSD)の過剰結合の問題を大幅に改善し、化学および固体物理学の標準的手法となった。
しかし、GGAには原理的な限界が存在した。GGAは電子密度 とその一次勾配 のみに依存する形式(半局所近似)をとるため、緩やかに変化する電子ガスに対する**勾配展開近似(GEA: Gradient Expansion Approximation)**の第2次オーダー( の項)までしか原理的に再現できない。実際の電子系、特に原子や分子、表面近傍の電子密度は、第2次オーダーでは記述しきれない高次の不均一性を含んでいる。
1999年、John P. Perdew, Stefan Kurth, Aleš Zupan, Peter Blahaは、Physical Review Letters誌において、GGAを超える新たな階層(Meta-GGA)の汎関数であるPKZB(Perdew-Kurth-Zupan-Blaha)汎関数を提案した [1]。PKZBは、局所的なKohn-Sham軌道の運動エネルギー密度 を新たな変数として導入することで、GGAでは不可能であった「第4次オーダーの勾配展開の正確な回復」を実現した。
本稿では、PKZB交換汎関数の理論的背景、特に運動エネルギー密度の導入がもたらす物理的自由度と、それを用いた汎関数の具体的構築法について詳述する。
1. 理論的背景:運動エネルギー密度と勾配展開
1.1 運動エネルギー密度 の導入
Meta-GGAにおける核心的な変数は、占有Kohn-Sham軌道 から計算される運動エネルギー密度 である。
GGAが密度勾配 のみに依存するのに対し、Meta-GGAは を通じて、電子密度のラプラシアン に相当する情報や、局所的な電子状態の性質(単一軌道的か、金属的かなど)を参照することができる。
PKZBでは、この を無次元化して使用するのではなく、von Weizsäcker運動エネルギー密度 との差分、あるいは比率として用いることで、物理的な情報を抽出する。
1.2 勾配展開近似(GEA)の次数
緩やかに変化する電子密度において、交換エネルギー は密度の勾配を用いて以下のように展開できる。
- LSD: 第0次オーダーのみを記述。
- GGA: 第2次オーダー()までを記述可能(ただし、PBEなどは物理的理由から第2次係数をGEA値そのものではなく修正して使用している)。
- Meta-GGA: 運動エネルギー密度 は、勾配展開において や と密接に関連しているため、これを利用することで第4次オーダーまでの項を解析的に取り込むことが可能となる。
PKZB交換汎関数の最大の狙いは、この第4次オーダーの勾配展開を、発散することなく(正則化して)汎関数に組み込むことにある。
2. PKZB交換汎関数の構築
PKZB交換エネルギー は、局所密度近似の交換エネルギー密度 に対する増倍因子(Enhancement Factor) を用いて記述される。
ここで、変数は以下の通りである。
- (無次元化された密度勾配の二乗)
- (等軌道指標に相当する量。PKZBでは と の比率が重要な役割を果たす)
2.1 第4次オーダーの回復
緩やかに変化する極限において、運動エネルギー密度 自体も勾配展開が可能である。
この関係式を利用すると、交換エネルギーの第2次および第4次の勾配項を、 と の組み合わせで表現することができる。Perdewらは、Svendsenとvon Barthによる第4次勾配展開の係数に基づき、PKZBの増倍因子 が以下の極限を満たすように設計した。
(ここで はラプラシアンに関連する項を で書き換えたもの)
この設計により、PKZBは電子密度が緩やかに変化する領域(金属内部や価電子帯の広い領域など)において、GGAよりも格段に高い精度(理論的な正しさ)を保証する。
2.2 具体的関数形とパラメータ
第4次オーダーを回復しつつ、かつLieb-Oxford境界条件(大勾配極限でのエネルギーの下限)を満たすために、PKZBでは以下のPadé近似的な関数形を採用している。
ここで は と の多項式で構成される関数であり、低勾配極限で第4次GEAに一致し、高勾配極限で定数に収束するように作られている。 この関数形には、一つの経験的パラメータ が含まれている。
- パラメータ の決定: PKZBは「完全な非経験的」ではなく、パラメータ を決定するために実験データを用いている。具体的には、原子の交換エネルギーや原子化エネルギーのデータセットを用いてフィッティングを行い、 という値が採用されている。 (注:後に開発されるTPSS汎関数では、このパラメータも物理的条件から決定され、完全な非経験的汎関数となるが、PKZBの段階では実用的な精度を確保するために最小限の経験的調整が行われた。)
3. PKZBの物理的特性と性能
3.1 原子化エネルギーの改善
原著論文において、PKZBは20種類の小分子の原子化エネルギー(Atomization Energies)についてベンチマークされている。
- PBE (GGA): 平均絶対誤差(MAE)は約 8.5 kcal/mol。
- PKZB (Meta-GGA): MAEは約 3.9 kcal/mol に半減。
この劇的な改善は、第4次オーダーの勾配展開を取り入れたことによる「緩やかな密度変化領域」の記述向上と、運動エネルギー密度による「結合領域(共有結合 vs 孤立電子対など)」の識別能力向上に起因する。特に、多重結合を持つ分子や、電子密度が複雑に変化する系において、GGAの過剰結合傾向(Overbinding)が適切に補正されている。
3.2 表面エネルギーの記述
固体表面のエネルギー計算において、GGA(PBE)は実験値よりも低い値を与える(表面を安定化させすぎる)傾向があった。これは、表面付近で電子密度が真空に向かって減衰する際、勾配が大きくなる領域の記述が不十分であるためである。 PKZBは、表面エネルギー計算においてPBEよりも高い値を与え、実験値(Gelモデルからの推定値)との一致を大幅に改善した。これは、表面における電子密度の尾(Tail)の記述において、運動エネルギー密度 がより正確な物理的制約(von Weizsäcker極限への接近など)を提供するためである。
3.3 格子定数に関する課題
一方で、固体の格子定数(平衡体積)に関しては、PKZBはPBEと同程度、あるいは系によってはPBEよりもわずかに劣る結果を示す場合があった。これは、PKZBに含まれる経験的パラメータ が分子の原子化エネルギーに最適化されているため、固体の平衡状態に対する記述が若干犠牲になった可能性が示唆されている。(この課題は後のTPSSで改善される。)
4. 議論:Meta-GGAの意義と課題
4.1 “Jacob’s Ladder”の第3段として
John Perdewは、DFTの近似の階層を「ヤコブの梯子」に例えた。PKZBは、LSD(第1段)、GGA(第2段)に続く第3段(Meta-GGA)の実質的な第一歩であり、運動エネルギー密度という「半局所(Semilocal)」な情報を加えるだけで、計算コストをハイブリッド汎関数ほど増大させることなく、化学的精度を大幅に向上できることを実証した。
4.2 自己相互作用補正(相関項との連携)
本稿では交換汎関数に焦点を当てているが、PKZBの相関汎関数部分もまた重要である。PKZB相関汎関数は、運動エネルギー密度を用いることで「1電子系における自己相関エネルギーの消失(Self-Interaction Free)」を実現している。交換項の第4次GEA回復と、相関項の自己相互作用フリーという2つの特徴が組み合わさることで、PKZBは全体としての高いパフォーマンスを発揮する。
4.3 経験的パラメータと順序問題
PKZBの設計における課題として、以下の2点が後の研究(TPSSなど)で指摘されている。
- 経験的パラメータ: 前述の通り、パラメータ が実験値フィッティングに依存しているため、普遍性に欠ける懸念があった。
- 極限順序の問題(Order of Limits): (勾配ゼロ)と (1電子系)の極限を取る順序によって、汎関数の値が不連続になる可能性があった。
これらの課題は、2003年のTPSS汎関数によって解消されることになるが、PKZBはその前段階として、Meta-GGAの物理的基盤(特に第4次GEAの重要性)を確立した点において極めて高い学術的価値を持つ。
結論
1999年に発表されたPKZB交換汎関数は、密度汎関数法における一般化勾配近似(GGA)の限界を突破するために、運動エネルギー密度 を変数として導入した先駆的なMeta-GGA汎関数である。 Perdewらは、緩やかに変化する電子密度に対する第4次オーダーの勾配展開を解析的に回復するように汎関数を設計することで、原子・分子の原子化エネルギーおよび固体の表面エネルギーの予測精度をGGAから大幅に向上させた。
PKZBは、計算コストと精度のバランスにおいて新たな基準を打ち立て、その後のTPSSやM06、SCANといった現代的なMeta-GGA汎関数発展の礎となった。その設計思想である「第一原理的な極限(GEA)の充足」と「運動エネルギー密度による物理的識別」は、今日のDFT開発においても変わらぬ指導原理となっている。
参考文献
- J. P. Perdew, S. Kurth, A. Zupan, and P. Blaha, “Accurate Density Functional with Correct Formal Properties: A Step Beyond the Generalized Gradient Approximation”, Phys. Rev. Lett. 82, 2544 (1999).
