最終更新:2025-12-29
注意: この記事はAIによって自動生成されたものです。正確な情報については、必ず引用元の原著論文および各計算化学ソフトウェアのマニュアルをご確認ください。
はじめに
密度汎関数法(DFT)において、交換・相関エネルギー汎関数 の近似精度は計算結果の信頼性を左右する最も重要な要素である。その中で、最も基本的かつ重要な近似である**局所スピン密度近似(LSDA: Local Spin Density Approximation)は、系の各点におけるエネルギー密度を、その点と同じ電子密度およびスピン分極率を持つ均一電子ガス(Homogeneous Electron Gas)**のエネルギー密度で置き換えるものである。
交換項(Exchange)に関しては、均一電子ガスに対する解析解(Diracの交換エネルギー、あるいはSlater交換)が存在するが、**相関項(Correlation)**には単純な解析解が存在しない。そのため、高精度の数値計算結果を再現するようにフィッティングされた「パラメーター化された数式」が用いられる。
そのパラメーター化において、現在事実上の標準(Standard)として扱われているのが、1980年にS. H. Vosko, L. Wilk, M. Nusairによって提案されたVWN汎関数である。本稿では、原著論文 [S. H. Vosko, L. Wilk, and M. Nusair, Can. J. Phys. 58, 1200 (1980)] に基づき、その数理的構造と、実用計算において混乱を招きやすい「VWN」と「VWN5」の定義の違いについて解説する。
1. 開発の背景:相関エネルギーの記述における課題
1980年当時、均一電子ガスの相関エネルギー に関しては、いくつかの近似的な計算や、高密度極限(RPA: Random Phase Approximation)での振る舞いが知られていたが、金属や原子・分子の電子密度領域()における正確な値、特にスピン分極依存性に関しては不確実性が残っていた。
1.1 Ceperley-Alderによる量子モンテカルロ計算
この状況を一変させたのが、D. M. CeperleyとB. J. Alderによる量子モンテカルロ法(QMC)を用いた計算結果である。彼らは、非磁性状態(Paramagnetic, )および完全強磁性状態(Ferromagnetic, )の双方において、均一電子ガスの基底状態エネルギーを極めて高い精度で算出した。
1.2 Vosko-Wilk-Nusairの目的
Voskoらは、CeperleyとAlderの離散的な計算結果()を用いて、任意の密度 およびスピン分極率 に対して相関エネルギーを与えるための**補間公式(Interpolation Formula)**を構築した。これがVWN汎関数である。
彼らのアプローチの要点は以下の2点にある。
- 正確なRPA計算: スピン依存性を正しく評価するために、RPA相関エネルギーを再計算し、従来の近似(von Barth and Hedinなど)の不備を指摘した。
- Padé近似によるフィッティング: 高密度極限()と低密度極限()の既知の振る舞いを満たしつつ、中間の密度領域を滑らかに繋ぐ数式を採用した。
2. 数理構造:VWNの補間公式
VWN汎関数の中核をなすのは、電子密度パラメータ (Wigner-Seitz半径)の関数として定義される相関エネルギー の数式である。
2.1 Padé近似に基づく関数形
Voskoらは、相関エネルギー を表現するために、以下の形式のPadé近似([1, 3] Padé approximant)を導入した(原著論文 Eq. [4.3] および [4.4])。
変数 を用いて、相関エネルギーは以下のように記述される。
ここで、各項の定義は以下の通りである。
- はフィッティングパラメータである。
この複雑な関数形が採用された理由は、以下の物理的要請を満たすためである。
- 高密度極限 (): という対数発散項を正しく再現する(Gell-Mann & Bruecknerの結果)。定数 は理論的に決定される値である。
- 低密度極限 (): という Wigner 結晶的な振る舞いに漸近する。
2.2 スピン依存性の記述
LSDAにおいては、スピンアップ密度 とスピンダウン密度 が異なる場合のスピン分極率 への依存性が重要となる。
VWNは、相関エネルギー を、非磁性状態()と完全強磁性状態()、およびスピン剛性(Spin Stiffness) を用いて以下のように補間する。
ただし、スピン補間関数 は以下の通りである(交換エネルギーの補間関数と同じ形式)。
Voskoらは、この単純な補間ではスピン剛性の記述が不十分であるとして、さらに補正項を加えたより精密な式も提案しているが、多くの実装では上記の形式、あるいはスピン剛性を考慮した形式が用いられる。
3. 「VWN」と「VWN5」の違い:混乱の主要因
計算化学ソフトウェア(特にGaussian)において、VWN汎関数には VWN と VWN5 という2つの異なるキーワードが存在し、これらがしばしばユーザーの混乱を招く。この違いは、前述の数式(Eq. [4.4])に代入する**「パラメータセットの由来」**に起因する。
3.1 VWN (Functional III)
- 定義: 均一電子ガスのRPA(Random Phase Approximation)計算の結果に対してフィッティングを行ったもの。
- 原著論文での位置づけ: 原著論文 Section 3 および 4 において、Voskoらはまず自身の正確なRPA計算結果に対し、提案した数式(Eq. [4.4])を適用してパラメータを決定した。
- パラメータ:
- Para (): , , ,
- Ferro (): , , ,
- Gaussianでのキーワード:
VWN - 用途: 歴史的に、B3LYP などのハイブリッド汎関数の定義において、この「RPA版VWN」が相関項として採用されている。そのため、B3LYPの計算を再現するためにはこちらを使用する必要がある。
3.2 VWN5 (Functional V)
- 定義: CeperleyとAlderによる量子モンテカルロ(QMC)計算の結果に対してフィッティングを行ったもの。
- 原著論文での位置づけ: 原著論文 Section 4 で推奨されている、物理的により正確なパラメータセットである。Voskoらはこれを「recommended」としている。
- パラメータ:
- Para (): , , ,
- Ferro (): , , ,
- Gaussianでのキーワード:
VWN5 - 用途: 純粋なLSDA計算を行う場合や、物理的な正確さを求める場合は、QMC結果に基づいたこちらの
VWN5を使用すべきである。
3.3 なぜ「III」と「V」なのか?
これらの番号は、原著論文内で明示的に「Functional III」「Functional V」と命名されているわけではないが、文献やソフトウェアの実装において慣習的に区別されている。
- III: 原著論文内でRPA解へのフィッティングについて議論されている文脈、あるいは初期のパラメータセットに対応する。
- V: 原著論文 Table 5 に掲載されている、Ceperley-Alderデータへのフィッティング結果に対応する。
4. 物理的評価と現代における位置づけ
4.1 精度と評価
Vosko-Wilk-Nusairの補間公式は、以下の点において画期的であった。
- 全密度領域での適用性: 金属密度領域()を含むあらゆる密度で、QMCまたはRPAの解を非常に高い精度(最大誤差 1 mRy 以下と見積もられている)で再現する。
- 正しい極限動作: 理論的に厳密な高密度・低密度極限を内包しているため、物理的に破綻しにくい。
- スピン依存性: 当時曖昧であったスピン補間に対し、論理的な裏付けを与えた。
4.2 現代のDFTにおける利用
現在でも、VWN5はLSDA相関汎関数のデファクトスタンダードである。 PBEなどのGGA(一般化勾配近似)汎関数においても、その局所部分(Local Limit)としてVWN(またはそれに準ずるPerdew-Wang 92など)が使用されることが多い。
また、ハイブリッド汎関数 B3LYP が化学分野で爆発的に普及したため、その構成要素である「RPA版VWN(Gaussianの VWN)」もまた、互換性の観点から極めて重要な地位を占め続けている。ユーザーは、自身の目的が「B3LYPの再現(互換性)」なのか「物理的に最良のLSDA計算」なのかによって、VWN と VWN5 を適切に使い分ける必要がある。
まとめ
- VWN汎関数は、1980年にVoskoらがCeperley-AlderのQMCデータを元に構築した、均一電子ガスの相関エネルギーに対する高精度な補間公式である。
- 複雑なPadé近似形式を用いることで、高密度から低密度まで物理的に正しい振る舞いを保証している。
- VWN (III) はRPA解にフィッティングしたものであり、B3LYPなどで使用される。
- VWN5 (V) はQMC解にフィッティングしたものであり、純粋なLSDAとしてはこちらが物理的に推奨される。
この汎関数の登場により、均一電子ガス限界における相関エネルギーの曖昧さが排除され、DFTはより高精度な近似(GGAやハイブリッド汎関数)へと発展するための強固な物理的基盤を獲得した。
参考文献
- S. H. Vosko, L. Wilk, and M. Nusair, “Accurate spin-dependent electron liquid correlation energies for local spin density calculations: a critical analysis”, Can. J. Phys. 58, 1200 (1980).
