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【DFT基礎】コーン・シャム方程式の解説と純粋な密度汎関数の数理構造

最終更新:2025-12-29

注意: この記事はAIによって自動生成されたものです。正確な情報については、必ず引用元の原著論文をご確認ください。

1. 密度汎関数法の基礎理論#

密度汎関数法(Density Functional Theory, DFT)は、多電子系の基底状態のエネルギーや物性が、電子密度 ρ(r)\rho(\mathbf{r}) の汎関数として一意に決定されるという理論に基づいている。現代の電子状態計算の大部分は、1965年に提案されたコーン・シャム(Kohn-Sham)形式に基づいている。

本稿では、汎関数の各論に入る前に、まずコーン・シャム方程式がどのような物理的要請から導かれたかを整理し、その後に交換・相関項の具体的な数理モデルを解説する。

1.1 ホーエンベルグ・コーンの定理#

1964年にPierre HohenbergとWalter Kohnによって証明されたホーエンベルグ・コーン定理(Hohenberg-Kohn theorems、略してHK定理)は、密度汎関数理論(Density Functional Theory, DFT)の理論的基盤を築いた画期的な結果である。この定理は、多電子系の基底状態が電子密度分布 ρ(r)\rho(\mathbf{r})(または n(r)n(\mathbf{r}) と表記されることもある)だけで完全に記述可能であることを示し、従来の波動関数 Ψ(r1,,rN)\Psi(\mathbf{r}_1, \dots, \mathbf{r}_N) を用いた3N次元の複雑な計算から、わずか3次元の電子密度のみを扱う道を開いた。

HK定理は以下の2つの定理からなる。

第一定理(存在定理、一意性定理)#

外部ポテンシャル vext(r)v_{\text{ext}}(\mathbf{r})(例: 原子核によるクーロンポテンシャル)は、基底状態の電子密度 ρ0(r)\rho_0(\mathbf{r}) によって(定数項を除いて)一意に決定される

  • したがって、ハミルトニアン全体(運動エネルギー + 電子間相互作用 + 外部ポテンシャル)も ρ0(r)\rho_0(\mathbf{r}) によって決まり、系のすべての基底状態物性(エネルギー、磁性、構造など)は ρ0(r)\rho_0(\mathbf{r}) の汎関数となる。
  • 証明のポイント(背理法): 異なる2つの外部ポテンシャル v1(r)v_1(\mathbf{r})v2(r)v_2(\mathbf{r})(差が定数以上)が、同じ基底状態電子密度 ρ0(r)\rho_0(\mathbf{r}) を与えると仮定する。 それぞれに対応するハミルトニアン H^1\hat{H}_1H^2\hat{H}_2 と基底状態波動関数 Ψ1\Psi_1Ψ2\Psi_2(非縮退を仮定)に対し、波動関数に対する変分原理からエネルギー不等式を導くと矛盾が生じる。 これにより、ρ0(r)vext(r)\rho_0(\mathbf{r}) \to v_{\text{ext}}(\mathbf{r}) の一対一対応が証明される。
  • 物理的意味: 電子密度分布だけを知れば、系の本質的な情報(原子核の位置・種類さえも、加藤の定理により)がすべて決まる。波動関数が持つ膨大な情報を、たった3次元の関数 ρ(r)\rho(\mathbf{r}) に圧縮できる。
  • 仮定:
    • 基底状態の非縮退。
    • v-表示可能性(v-representability):任意の合理的電子密度に対して、それを基底状態密度とする外部ポテンシャルが存在する。

第二定理(変分原理)#

エネルギー汎関数 E[ρ~]E[\tilde{\rho}] を、任意の試行電子密度 ρ~(r)\tilde{\rho}(\mathbf{r})(非負で総電子数 N=ρ~(r)drN = \int \tilde{\rho}(\mathbf{r}) d\mathbf{r} を満たすもの)に対して定義すると、

E[ρ~]E0E[\tilde{\rho}] \geq E_0

であり、等号は ρ~(r)=ρ0(r)\tilde{\rho}(\mathbf{r}) = \rho_0(\mathbf{r}) のときにのみ成立する。

  • エネルギー汎関数の形(HK形式):
EHK[ρ]=FHK[ρ]+vext(r)ρ(r)drE_{HK}[\rho] = F_{HK}[\rho] + \int v_{\text{ext}}(\mathbf{r}) \rho(\mathbf{r}) \, d\mathbf{r}

ここで FHK[ρ]=Ψ[ρ]T^+V^eeΨ[ρ]F_{HK}[\rho] = \langle \Psi[\rho] | \hat{T} + \hat{V}_{ee} | \Psi[\rho] \rangle普遍的汎関数(外部ポテンシャルに依存しない、運動エネルギー T^\hat{T} と電子間クーロン相互作用 V^ee\hat{V}_{ee} のみを含む)。

  • 証明のポイント: 第一定理と通常の波動関数に対する変分原理を組み合わせ、背理法で示す。試行密度に対応する(仮定の)波動関数を用いてエネルギー期待値を比較。
  • 実践的な使い方: 電子数保存の制約下で変分を取ると、
δEHK[ρ]δρ(r)=μ(μ:化学ポテンシャル)\frac{\delta E_{HK}[\rho]}{\delta \rho(\mathbf{r})} = \mu \quad (\mu: \text{化学ポテンシャル})

これを満たす ρ(r)\rho(\mathbf{r}) が基底状態密度となる。

HK定理の意義と限界#

意義#

  • DFTを厳密な理論として確立した。
  • 波動関数変分(指数関数的に計算量が増大)から電子密度変分(3次元格子で扱える)へのパラダイムシフトを実現し、現代の量子化学・固体物理計算の基盤となった。

限界(これがKohn-Sham方程式への動機)#

  • HK定理は「汎関数が存在する」ことと「変分で最小化できる」ことしか示していない。具体的な FHK[ρ]F_{HK}[\rho] の形は未知
  • 特に、運動エネルギー項 T[ρ]T[\rho] を電子密度だけで正確に表現する方法がわからない(波動関数なしでは非局所的で複雑)。
  • 交換相関エネルギーも含めた普遍的汎関数 FHK[ρ]F_{HK}[\rho] は非解析的で、厳密解はごく少数(例: 均一電子気体)の系しか知られていない。
  • v-表示可能性の問題: すべての合理的密度が実際に何らかの外部ポテンシャルで実現可能とは限らない(後にLevy-Liebの制限付き探索で緩和される)。

これらの限界のため、純粋な密度汎関数理論(直接 ρ(r)\rho(\mathbf{r}) を変分して解く)は実用的ではなく、1965年にWalter KohnとLu Jeu Shamが提案したKohn-Shamアプローチが必要となる。次節では、非相互作用補助系を導入し、一電子軌道経由で運動エネルギーを扱う巧妙なマッピングについて解説する。

2. コーン・シャム方程式の導出#

1965年にWalter KohnとLu Jeu Shamが提案したコーン・シャム(Kohn-Sham, KS)方程式は、密度汎関数理論(DFT)の実用的計算を可能にした画期的な手法である。ホーエンベルグ・コーン(HK)定理が「電子密度だけで基底状態のすべてが決まる」と示したのに対し、KS方程式は「どのように実際に計算するか」の具体策を提示する。

2.1 HK定理のおさらいと課題#

HK定理(Phys. Rev. 136, B864 (1964))では全エネルギーを電子密度の汎関数として

E[ρ]=vext(r)ρ(r)dr+FHK[ρ]E[\rho] = \int v_{\mathrm{ext}}(\mathbf{r}) \rho(\mathbf{r}) \, d\mathbf{r} + F_{HK}[\rho]

と書き、FHK[ρ]F_{HK}[\rho] を普遍的汎関数(運動エネルギー TT + 電子間相互作用 VeeV_{ee})とする。変分原理により真の密度 ρ0\rho_0E[ρ]E[\rho] が最小になる。 課題は FHK[ρ]F_{HK}[\rho] の具体形が不明なこと、特に運動エネルギー T[ρ]T[\rho] を密度のみで正確に表すのが難しい点にある。これを回避するため、KSは「相互作用のない仮想電子系(参照系)」を導入する。

2.2 エネルギー汎関数の分割#

原著Sec. II.Aで普遍的汎関数 G[ρ]G[\rho](HKの FHKF_{HK} に相当)を

G[ρ]=Ts[ρ]+Exc[ρ]G[\rho] = T_s[\rho] + E_{xc}[\rho]

と分割する。ここで

  • Ts[ρ]T_s[\rho]: 非相互作用電子系の運動エネルギー(参照系)。軌道を用いて正確に計算可能。
  • Exc[ρ]E_{xc}[\rho]: 交換・相関エネルギー(残余の量子効果)。

全エネルギーは

E[ρ]=Ts[ρ]+J[ρ]+Eext[ρ]+EXC[ρ]E[\rho] = T_s[\rho] + J[\rho] + E_{\mathrm{ext}}[\rho] + E_{XC}[\rho]
  1. Ts[ρ]T_s[\rho](非相互作用運動エネルギー) Ts[ρ]=12ioccϕi2ϕi=ioccϵiρ(r)veff(r)drT_s[\rho] = -\frac{1}{2} \sum_i^{\mathrm{occ}} \langle \phi_i | \nabla^2 | \phi_i \rangle = \sum_i^{\mathrm{occ}} \epsilon_i - \int \rho(\mathbf{r})\, v_{\mathrm{eff}}(\mathbf{r})\, d\mathbf{r}
  2. J[ρ]J[\rho](Hartree項) J[ρ]=12ρ(r)ρ(r)rrdrdrJ[\rho] = \frac{1}{2} \iint \frac{\rho(\mathbf{r}) \rho(\mathbf{r}')}{|\mathbf{r} - \mathbf{r}'|} \, d\mathbf{r} d\mathbf{r}'
  3. Eext[ρ]E_{\mathrm{ext}}[\rho](外部ポテンシャル) Eext[ρ]=vext(r)ρ(r)drE_{\mathrm{ext}}[\rho] = \int v_{\mathrm{ext}}(\mathbf{r}) \rho(\mathbf{r}) \, d\mathbf{r}
  4. EXC[ρ]E_{XC}[\rho](交換・相関) EXC[ρ]ρ(r)ϵxc(ρ(r))drE_{XC}[\rho] \approx \int \rho(\mathbf{r})\, \epsilon_{xc}(\rho(\mathbf{r})) \, d\mathbf{r}

2.3 変分原理と有効ポテンシャル#

変分条件(電子数保存):

δE[ρ]δρ(r)=μ\frac{\delta E[\rho]}{\delta \rho(\mathbf{r})} = \mu

展開すると

δTs[ρ]δρ(r)+vext(r)+ρ(r)rrdr+δEXC[ρ]δρ(r)=μ\frac{\delta T_s[\rho]}{\delta \rho(\mathbf{r})} + v_{\mathrm{ext}}(\mathbf{r}) + \int \frac{\rho(\mathbf{r}')}{|\mathbf{r} - \mathbf{r}'|} \, d\mathbf{r}' + \frac{\delta E_{XC}[\rho]}{\delta \rho(\mathbf{r})} = \mu

非相互作用参照系では

δTs[ρ]δρ(r)+veff(r)=μ\frac{\delta T_s[\rho]}{\delta \rho(\mathbf{r})} + v_{\mathrm{eff}}(\mathbf{r}) = \mu

よって

veff(r)=vext(r)+ρ(r)rrdr+vXC(r),vXC(r)=δEXC[ρ]δρ(r).v_{\mathrm{eff}}(\mathbf{r}) = v_{\mathrm{ext}}(\mathbf{r}) + \int \frac{\rho(\mathbf{r}')}{|\mathbf{r} - \mathbf{r}'|} \, d\mathbf{r}' + v_{XC}(\mathbf{r}), \quad v_{XC}(\mathbf{r}) = \frac{\delta E_{XC}[\rho]}{\delta \rho(\mathbf{r})}.

2.4 コーン・シャム方程式#

[122+veff(r)]ϕi(r)=ϵiϕi(r),ρ(r)=ioccϕi(r)2.\left[ -\frac{1}{2} \nabla^2 + v_{\mathrm{eff}}(\mathbf{r}) \right] \phi_i(\mathbf{r}) = \epsilon_i \phi_i(\mathbf{r}), \qquad \rho(\mathbf{r}) = \sum_i^{\mathrm{occ}} |\phi_i(\mathbf{r})|^2.

2.5 計算手順(SCFループ)#

  1. 初期密度 ρ(0)(r)\rho^{(0)}(\mathbf{r}) を与える。
  2. veff(r)v_{\mathrm{eff}}(\mathbf{r}) を計算(Hartree + vXCv_{XC})。
  3. KS方程式を解き ϕi,ϵi\phi_i, \epsilon_i を得る。
  4. 新しい密度 ρ(r)\rho(\mathbf{r}) を計算。
  5. 収束するまで 2–4 を繰り返す(必要に応じ混合・減衰)。

収束後のエネルギー(ダブルカウント補正を含む一例):

E=ioccϵi12ρ(r)ρ(r)rrdrdr+ρ(r)[ϵXC(ρ(r))vXC(r)]dr.E = \sum_i^{\mathrm{occ}} \epsilon_i - \frac{1}{2} \iint \frac{\rho(\mathbf{r}) \rho(\mathbf{r}')}{|\mathbf{r} - \mathbf{r}'|} \, d\mathbf{r} d\mathbf{r}' + \int \rho(\mathbf{r}) \left[\epsilon_{XC}(\rho(\mathbf{r})) - v_{XC}(\mathbf{r})\right] d\mathbf{r}.

2.6 意義と限界#

  • 意義: 多電子問題を一電子方程式に帰着し、計算コストを N3N^3 オーダー程度に抑える。
  • 限界: EXCE_{XC} 近似に依存。密度が急変する領域や結合開裂などでは誤差が大きくなりうる。

2.7 自己相互作用誤差(Self-Interaction Error, SIE)#

 コーン・シャム(KS)DFTの実用計算において、交換・相関エネルギー EXC[ρ]E_{XC}[\rho] の近似は避けて通れないが、局所密度近似(LDA)や一般化勾配近似(GGA)といった多くの標準的な近似汎関数は、自己相互作用誤差(Self-Interaction Error, SIE) という本質的な問題を抱えている。

KS論文(Sec. II.A)において、変分原理から導かれる交換ポテンシャルは、それ以前にSlaterが提唱していた平均交換ポテンシャルの 2/32/3 倍になることが示され、係数の是正が行われた。

しかし、この物理的に正しいKS-LDA法においても、依然としてSIEの問題は解決されずに残る。

SIEとは何か#

  • 定義: 多電子系を一電子方程式で近似する際、ハートリー項(古典的クーロン項)J[ρ]J[\rho] は全電子密度 ρ(r)\rho(\mathbf{r}) を用いて計算されるため、各電子が「自分自身」とのクーロン相互作用(自己相互作用)を含んでしまう。本来、交換・相関項 EXC[ρ]E_{XC}[\rho] がこれを正確に打ち消すべきだが、近似汎関数ではキャンセルしきれずに残る誤差のことを指す。
  • 具体例: 一電子系(水素原子など)を考える。真の相互作用エネルギーはゼロであるはずだが、標準的なDFT近似では J[ρ]+EXC[ρ]0J[\rho] + E_{XC}[\rho] \neq 0 となり、非ゼロの誤差が生じる。この結果、電子が「自分自身を斥力で押し出す」ように振る舞い、電子密度が過度に広がる(非局在化誤差: delocalization error)。
  • 原因: EXC[ρ]E_{XC}[\rho] の近似形式(LDAやGGA)が局所的、あるいは半局所的であり、ハートリー項が持つ完全な非局所性を相殺できないことに起因する。

SIEの影響#

 SIEの存在は、化学的な予測において以下のような深刻な問題を引き起こす。

  • 分子解離エネルギーの過小評価: 例えば H2+\text{H}_2^+ イオンのような奇数電子系において、非局在化誤差により結合が異常に弱く見積もられる。
  • 電荷移動励起状態の記述失敗: 遠距離での電荷移動において、エネルギーを著しく低く見積もる。
  • バンドギャップの過小評価: 絶縁体や半導体のバンドギャップが実験値より極端に小さくなる。

Hartree-Fock法の優位性と修正アプローチ#

Hartree-Fock (HF) 法は、交換項を厳密な非局所演算子として扱うため、各軌道の自己相互作用を理論的に完全にキャンセルする(SIEが存在しない)。一方で、HF法は電子相関を全く含まないため、化学的精度(結合エネルギーなど)においてはDFTに劣ることが多い。

このジレンマを解消するために、現代のDFTでは以下のような修正法が用いられる。

  • 自己相互作用補正 (SIC): Perdew-Zunger法のように、軌道ごとに自己相互作用項を明示的に差し引く手法。ただし計算コストが高い。
  • ハイブリッド汎関数: B3LYPやPBE0のように、HF交換を一定割合(20-50%程度)混合することで、SIEを部分的に相殺する。
  • 長距離補正 (Range-Separated) 汎関数: 電子間距離に応じて、短距離はDFT、長距離はHFのように相互作用を切り替えることで、計算コストを抑えつつSIEを効果的に低減する。

KS方程式の原著論文の段階では均一電子ガス近似の妥当性が主眼であったが、現代のDFT開発においては、このSIEの克服が最も重要なテーマの一つとなっている。

次節では、(E_{XC}) の具体的な近似(LDA, GGAなど)について解説する。

3. 純粋密度汎関数(Pure DFT)の数理構造#

コーン・シャム形式において唯一未知の項である EXC[ρ]E_{XC}[\rho] は、通常、交換項 EXE_X と相関項 ECE_C に分離して近似される。

EXC[ρ]=EX[ρ]+EC[ρ]E_{XC}[\rho] = E_X[\rho] + E_C[\rho]

ここからは、ハイブリッド(HF交換混合)を含まない「純粋なDFT汎関数」について、その数理的定義を解説する。

3.1 局所密度近似 (LDA / LSDA)#

LDA(Local Density Approximation)は、電子密度が空間的に緩やかに変化すると仮定し、各点における交換・相関エネルギー密度を均一電子ガス(Uniform Electron Gas)(別名でジェリウムモデルと呼ばれる。)のそれと同じであるとみなす近似である。

EXCLDA[ρ]=ρ(r)ϵxc(ρ(r))drE_{XC}^{LDA}[\rho] = \int \rho(\mathbf{r}) \epsilon_{xc}(\rho(\mathbf{r})) d\mathbf{r}

交換項:Slater (S)#

均一電子ガスの交換エネルギーは解析的に厳密に導出されており、ρ4/3\rho^{4/3} に比例する(Diracの交換項とも呼ばれる)。

EXLDA[ρ]=34(3π)1/3ρ(r)4/3drE_X^{LDA}[\rho] = -\frac{3}{4} \left( \frac{3}{\pi} \right)^{1/3} \int \rho(\mathbf{r})^{4/3} d\mathbf{r}
  • Gaussianキーワード: S
  • 特徴: 単純だが、原子・分子の結合エネルギーを過大評価する傾向がある。

相関項:VWN (Vosko-Wilk-Nusair)#

均一電子ガスの相関エネルギー ϵc(ρ)\epsilon_c(\rho) には単純な解析解が存在しない。そのため、高精度の量子モンテカルロ計算(Ceperley-Alder, 1980)の結果に対し、補間公式を用いてフィッティングを行ったものが用いられる。

VWN(特にfunctional V)が最も標準的である。その形式は複雑だが、密度パラメータ rsr_s(電子間平均距離 ρ1/3\propto \rho^{-1/3})の関数として定義される。

ϵc(rs)=A[lnx2X(x)+2bQtan1Q2x+b]\epsilon_c(r_s) = A \left[ \ln \frac{x^2}{X(x)} + \frac{2b}{Q} \tan^{-1} \frac{Q}{2x+b} - \dots \right]

(ここで x=rsx=\sqrt{r_s} であり、その他はフィッティングパラメータ)

  • Gaussianキーワード: VWN (functional III), VWN5 (functional V)

3.2 一般化勾配近似 (GGA)#

LDAの欠点(急激な密度変化に対応できない)を克服するため、電子密度 ρ\rho に加えて、その勾配 ρ\nabla \rho を取り入れたものがGGA(Generalized Gradient Approximation)である。

EXCGGA[ρ]=ρ(r)ϵxcLDA(ρ)Fxc(ρ,ρ)drE_{XC}^{GGA}[\rho] = \int \rho(\mathbf{r}) \epsilon_{xc}^{LDA}(\rho) F_{xc}(\rho, \nabla \rho) d\mathbf{r}

交換項:Becke 88 (B)#

Beckeは、LDAの交換エネルギーに対し、勾配に依存する補正項(エンハンスメント因子)を加える形式を提案した。

EXB88=EXLDAβσρσ4/3xσ21+6βxσsinh1xσdrE_X^{B88} = E_X^{LDA} - \beta \sum_{\sigma} \int \rho_\sigma^{4/3} \frac{x_\sigma^2}{1 + 6\beta x_\sigma \sinh^{-1} x_\sigma} d\mathbf{r}

ここで xσx_\sigma は被約密度勾配である。 xσ=ρσρσ4/3x_\sigma = \frac{|\nabla \rho_\sigma|}{\rho_\sigma^{4/3}}

  • 物理的意味: この項は、遠距離でのエネルギー密度が正しい漸近挙動(1/r-1/r)を持つように設計されている。
  • Gaussianキーワード: B
  • 組み合わせ: BLYP (B + LYP), BP86 (B + P86)

交換項:PBE Exchange#

PBE交換汎関数は、経験的パラメータ(フィッティング)を用いず、物理的な境界条件を満たすように設計された形式を持つ。

EXPBE=ρϵxLDA(ρ)FX(s)drE_X^{PBE} = \int \rho \epsilon_x^{LDA}(\rho) F_X(s) d\mathbf{r} FX(s)=1+κκ1+μs2/κF_X(s) = 1 + \kappa - \frac{\kappa}{1 + \mu s^2 / \kappa}

ここで sρ/ρ4/3s \propto |\nabla \rho| / \rho^{4/3} は無次元化された勾配である。κ,μ\kappa, \mu は物理定数から決定される値である。

  • Gaussianキーワード: PBE (交換項)

相関項:LYP (Lee-Yang-Parr)#

LYPは、ヘリウム原子の波動関数に対するColle-Salvettiの相関エネルギー式を、密度汎関数の形式に変換したものである。 LDAの相関項(VWN等)を出発点とせず、全く独自の形式を持つ。数式にはラプラシアン 2ρ\nabla^2 \rho や局所運動エネルギー項が含まれる(ただし、部分積分により ρ\nabla \rho のみに書き換え可能)。

ECLYP=aγ1+dρ1/3{ρ+bρ2/3[CFρ5/32tW+]ecρ1/3}drE_C^{LYP} = -a \int \frac{\gamma}{1+d\rho^{-1/3}} \left\{ \rho + b \rho^{-2/3} [ C_F \rho^{5/3} - 2t_W + \dots ] e^{-c\rho^{-1/3}} \right\} d\mathbf{r}
  • 特徴: 局所相関項と非局所(勾配)相関項の両方を内包しているため、単体で完結した相関汎関数として振る舞う。
  • Gaussianキーワード: LYP
  • 組み合わせ: BLYP, B3LYP

相関項:PBE Correlation#

PBE交換と同様に、非経験的に導出されたGGA相関汎関数。LDA相関を出発点とし、勾配 ttss とは異なるスケーリング)による補正を加えている。

ECPBE=ρ[ϵcLDA(ρ)+H(ρ,t)]drE_C^{PBE} = \int \rho [ \epsilon_c^{LDA}(\rho) + H(\rho, t) ] d\mathbf{r}
  • 特徴: 物理的に堅牢であり、固体の計算において標準的に用いられる。
  • Gaussianキーワード: PBE (相関項)
  • 組み合わせ: PBEPBE (PBE交換 + PBE相関)

3.3 メタGGA (Meta-GGA)#

GGAをさらに拡張し、運動エネルギー密度 τ\tau を変数に加えたもの。

τσ(r)=12ioccϕiσ(r)2\tau_\sigma(\mathbf{r}) = \frac{1}{2} \sum_{i}^{occ} |\nabla \phi_{i\sigma}(\mathbf{r})|^2

純粋なDFTとしてのMeta-GGAには以下のようなものがある。

  • TPSS: PBEを改良し、物理的条件をより多く満たすようにした非経験的汎関数。
  • M06-L: ミネソタ系汎関数の中で唯一の「純粋DFT(Local)」。パラメータフィッティングにより遷移金属などへの適用性を高めている。
  • SCAN / r2SCAN: “Strongly Constrained and Appropriately Normed” の略。既知の厳密な物理条件の全てを満たすように設計された、現代における純粋DFTの到達点の一つ。

4. 汎関数の組み合わせとGaussianキーワード#

Gaussian等のソフトウェアでは、これら「交換項」と「相関項」のキーワードを結合して計算手法を指定する。

手法名交換汎関数 (EXE_X)相関汎関数 (ECE_C)特徴
SVWN (LSDA)Slater (S)VWN (VWN)最も基本的。結合エネルギーを過大評価。
BLYPBecke88 (B)LYP (LYP)有機分子の構造最適化に定評があるGGA。
BP86Becke88 (B)Perdew86 (P86)振動数解析の精度が良いとされる。
PBEPBEPBE (PBE)PBE (PBE)物理・固体分野の標準。パラメータを含まない。
TPSSTPSS (TPSS)TPSS (TPSS)Meta-GGA。PBEより高精度。
M06LM06-L (M06L)M06-L (M06L)遷移金属錯体に強い純粋Meta-GGA。

まとめ#

コーン・シャム方程式は、多体問題を「有効ポテンシャル中の独立粒子問題」に帰着させることで、計算可能な枠組みを提供した。この枠組みの中で、唯一の未知項である交換・相関エネルギー EXCE_{XC} をどのように近似するかによって、LDA, GGA, Meta-GGA といった階層が生まれる。

純粋なDFT汎関数は、HF交換(正確な交換項)を含まないため、自己相互作用誤差(SIE)の問題を抱えやすい一方で、計算コストが低く、金属のような非局在化した系に対してはハイブリッド汎関数よりも良い結果を与えることが多い。

参考文献#

  • P. Hohenberg and W. Kohn, “Inhomogeneous Electron Gas”, Phys. Rev. 136, B864 (1964).
  • W. Kohn and L. J. Sham, “Self-Consistent Equations Including Exchange and Correlation Effects”, Phys. Rev. 140, A1133 (1965).
  • A. D. Becke, J. Chem. Phys. 107, 8554 (1997). (Includes discussion on B88)
  • J. P. Perdew, K. Burke, and M. Ernzerhof, Phys. Rev. Lett. 77, 3865 (1996).
  • C. Lee, W. Yang, and R. G. Parr, Phys. Rev. B 37, 785 (1988). (LYP functional)
  • S. J. Vosko, L. Wilk, and M. Nusair, Can. J. Phys. 58, 1200 (1980). (VWN functional)
【DFT基礎】コーン・シャム方程式の解説と純粋な密度汎関数の数理構造
https://ss0832.github.io/posts/20251229_dft_kohn_sham_equation/
Author
ss0832
Published at
2025-12-29