最終更新:2025-12-29
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はじめに
密度汎関数法(DFT)の発展において、Perdew-Wang 91 (PW91) 汎関数は、一般化勾配近似(GGA: Generalized Gradient Approximation)の歴史における重要な転換点として位置づけられる。 1980年代後半、Becke 88 (B88) 汎関数が「原子の交換エネルギーを再現するための経験的フィッティング」によって成功を収めた一方で、John P. Perdewらのグループは、「物理的な第一原理(First Principles)のみに基づいて汎関数を構築する」というアプローチを追求していた。
PW91交換汎関数は、実験値へのフィッティングを行わず、**交換正孔(Exchange Hole)**が満たすべき厳密な物理条件(総和則など)を強制的に満たすように勾配展開を修正する過程で導出された。この「非経験的(Non-empirical)」なアプローチは、後のPBE汎関数などへと続く現代DFTの主流な設計思想の基礎となっている。
本稿では、PW91交換汎関数の理論的背景について、その基礎となる局所スピン密度近似(LSDA)の高精度化 と、実空間における交換正孔のカットオフ解析を中心に解説する。
1. 基礎としての局所スピン密度近似(LSDA)
GGAは、密度の勾配 に依存する補正項をLSDAに付加する形式、あるいはLSDAの増倍因子として記述される。したがって、出発点となるLSDA(均一電子ガス)のエネルギー記述が正確であることは、GGAの信頼性を担保する上で不可欠な前提条件となる。
1.1 局所相関エネルギーの精密化 (PW92)
PW91汎関数の開発と同時期に、PerdewとWangは均一電子ガスの相関エネルギー に対する最も正確で単純な解析的表現(PW92)を確立した。
均一電子ガスの状態は、Wigner-Seitz半径 とスピン分極率 によって記述される。
PerdewとWangは、Ceperley-Alderによる量子モンテカルロ計算の結果を基に、高密度極限()および低密度極限()での理論的に厳密な挙動を同時に満たす補間公式を提案した。
具体的には、相関エネルギー に対して以下の形式が採用されている。
この式は、高密度領域での対数発散()と、低密度領域での 依存性を滑らかに繋ぐものであり、以前のVosko-Wilk-Nusair (VWN) 形式よりも改善された導関数特性を持つ。
PW91交換汎関数は、このような厳密な局所極限(Local Limit)の上に、密度勾配による非局所効果を積み上げる形で構成されている。
2. 勾配展開近似 (GEA) の破綻と物理的要請
電子密度が空間的に変化する系において、LSDAを改善する自然な手法は、密度の勾配 の低次項を取り入れる勾配展開近似(GEA: Generalized Gradient Approximation)である。
2.1 GEAの交換正孔
交換エネルギー は、電子位置 とその周辺の「交換正孔密度」 との相互作用として表現できる。
ここで、交換正孔 は、ある電子が存在することによって、その周辺で同スピンの他の電子が見出される確率が減少することを表す。
物理的に妥当な交換正孔は、以下の厳密な条件を満たさなければならない。
- 総和則(Sum Rule): 正孔の総電荷は (電子1個分)でなければならない。
- 非正値性(Non-positivity): 正孔密度は常にゼロ以下でなければならない。
2.2 GEAの問題点
しかし、単純な勾配展開(GEA)によって導かれる交換正孔は、電子から離れた領域で正の値をとったり、深い振動を示したりするため、上記の物理的条件を著しく違反することが知られていた。その結果、GEAはLSDAよりもエネルギー精度が悪化する場合さえあった。
3. PW91の構築:実空間カットオフ法
PerdewとWangは、このGEAの欠陥を修正するために、**実空間カットオフ(Real-Space Cutoff)**と呼ばれる手法を導入した。これは、数値的なパラメータ合わせではなく、正孔の形状そのものを物理的に修正するアプローチである。
3.1 カットオフの手順
PW91の導出プロセスは概念的に以下のように説明される。
- GEA正孔の採用: まず、勾配の2次までの項を含むGEAの交換正孔 を出発点とする。
- 正値部分の除去: となる領域(非物理的な領域)を強制的にゼロにする。
- 規格化の強制: 正孔の積分値が正確に になるように、あるカットオフ半径 を設定し、それより遠方の正孔を切り捨てる。
この操作により得られた「修正された正孔」を用いて交換エネルギーを再計算すると、GEAの病的な振る舞いが消失し、物理的に妥当なエネルギーが得られる。
3.2 解析的な汎関数の導出
上記の実空間カットオフは数値的な手順であり、そのままでは計算コストが高すぎる。そこでPerdewらは、この数値的な結果を再現するような解析的な関数形 を設計した。これがPW91交換汎関数の定義式となる。
交換エネルギーは以下のように記述される。
ここで は均一電子ガスの交換エネルギー密度()であり、 は**交換増倍因子(Enhancement Factor)**と呼ばれる。
は無次元化された密度勾配である。
3.3 PW91交換増倍因子の具体的形状
PW91における は、以下のような有理関数形式で与えられる(具体的な係数は省略するが、構造を示す)。
(※注:これは概念的な形式であり、実際のPW91の式は多数の項を含む非常に複雑なものである)
この関数は以下の極限的性質を満たすように設計されている。
- (緩やかな変化): GEAの挙動()を再現する。
- (急激な変化): Lieb-Oxford境界条件(交換エネルギーの下限に関する厳密な不等式)を満たすように、一定値に収束する。
4. PW91の特徴と物理的意義
4.1 非経験的アプローチの成功
B88汎関数が実験値(希ガス原子の交換エネルギー)へのフィッティングによってパラメータ を決定したのに対し、PW91は交換正孔の物理的要件のみから導出された。それにもかかわらず、PW91は原子・分子の結合エネルギーや固体の格子定数において、B88と同等か、あるいは物理的により一貫した結果を与えた。これは、DFTが単なるパラメータ合わせの道具ではなく、第一原理的な理論体系として成立しうることを強く印象付けた。
4.2 Lieb-Oxford境界条件の充足
交換エネルギー には、LiebとOxfordによって導かれた厳密な下限が存在する。
B88汎関数は、大勾配極限()で増倍因子が発散するため、この条件を破る可能性がある。一方、PW91は構築段階でこの条件を満たすように設計されており、極端な電子密度分布を持つ系においても物理的に破綻しにくいという利点がある。
4.3 複雑性と数値的安定性
PW91の欠点として、その導出過程(数値的なカットオフのフィッティング)に由来する数式の複雑さが挙げられる。多数のパラメータと複雑な関数形は、プログラミングの実装を困難にし、またポテンシャル(エネルギーの汎関数微分)の計算において数値的な不安定性を引き起こす場合があった。
5. PW91からPBEへの進化
PW91は物理的に正しいアプローチであったが、その複雑さは美学的・実用的な課題を残した。1996年、Perdew, Burke, Ernzerhofは、PW91と同じ物理的原理(正孔の性質、Lieb-Oxford条件など)を満たしつつ、数式を劇的に単純化したPBE汎関数を提案した。
PBEの交換増倍因子は以下のように極めてシンプルである。
この単純化により、PW91が持っていた微細な数値的振動(Wiggles)が解消され、PBEは現代における標準的なGGAとしての地位を確立した。しかし、その物理的基礎は紛れもなくPW91において確立されたものである。
結論
PW91交換汎関数は、経験的パラメータに依存せず、量子力学的な厳密条件(交換正孔の総和則、非正値性、Lieb-Oxford境界条件など)を満たすように設計された、第一原理的GGAである。
その基礎には、PerdewとWangによる局所相関エネルギーの高精度な記述 があり、その上に実空間カットオフ解析に基づく勾配補正が構築されている。PW91は、その後のPBE汎関数などの発展を促し、計算化学および固体物理学におけるDFTの信頼性を飛躍的に向上させた歴史的なマイルストーンとして、現在もその価値を失っていない。
参考文献
- J. P. Perdew and Y. Wang, “Accurate and simple analytic representation of the electron-gas correlation energy”, Phys. Rev. B 45, 13244 (1992).
