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【DFT】r²SCANの数理構造:SCANの「数値的不安定性」をどう克服したか?

最終更新:2025-12-28

注意: この記事はAIによって自動生成されたものです。正確な情報については、必ず引用元の原著論文をご確認ください。

はじめに:SCANが抱えていた「ジレンマ」#

2015年に発表されたSCAN (Strongly Constrained and Appropriately Normed) 汎関数は、計算コストを抑えつつ高精度を実現する「メタGGAの決定版」として大きな注目を集めました。しかし、実用面ではある重大な欠点を抱えていました。

それは、「数値積分グリッドに対して極めて敏感である」 という点です。 SCANを使って構造最適化や振動解析を行うと、エネルギーの微分が不安定になり、計算が収束しなかったり、異常に時間がかかったりするケースが多発しました。

本稿では、2020年に発表された改良版である r²SCAN (regularized-restored SCAN) が、この問題を数学的にどう解決したのか、その「数式のトリック」を解説します。


1. SCANの弱点:数値的不安定性の正体#

SCANの不安定さの原因は、物理的な厳密さを追求するあまり導入された、等軌道指示子(Iso-orbital indicator) α\alpha の扱いにありました。

α(r)=ττWτunif\alpha(\mathbf{r}) = \frac{\tau - \tau_W}{\tau_{\text{unif}}}
  • τ\tau: 運動エネルギー密度
  • τW\tau_W: フォン・ヴァイツゼッカー運動エネルギー密度(単一軌道極限)
  • τunif\tau_{\text{unif}}: 均一電子ガスの運動エネルギー密度

SCANは、α=1\alpha=1(均一電子ガス極限)において、交換・相関エネルギーの補正関数 f(α)f(\alpha) の導関数がゼロになる(df/dα=0df/d\alpha = 0)ように設計されています。 しかし、これを満たすために導入されたスイッチング関数が、α=1\alpha=1 付近で数値的に「平坦かつ特異」な挙動を示し、これが数値積分におけるスパイクノイズ(グリッド問題)を引き起こしていました。

2. rSCANの試みと限界:「正則化」の代償#

この問題を解決しようとしたのが rSCAN (regularized SCAN) です。rSCANのアプローチは、関数を滑らかにする「正則化(Regularization)」でした。

rSCANの指示子 α~\tilde{\alpha}:

α~=ττWτunif+τr\tilde{\alpha} = \frac{\tau - \tau_W}{\tau_{\text{unif}} + \tau_r}

分母に正則化定数 τr\tau_r を加えて発散を防ぎ、さらにスイッチング関数を滑らかな多項式に置き換えました。 これにより数値安定性は劇的に向上しましたが、副作用として物理的な厳密さが失われました。滑らかにしたことで α=1\alpha=1 での導関数がゼロにならなくなり、勾配展開の第2次項(GE2)などの厳密な拘束条件を満たせなくなってしまったのです。その結果、原子化エネルギーなどの精度がSCANより悪化してしまいました。


3. r²SCANの解決策:「正則化」+「復元」の数理#

r²SCAN (regularized-restored SCAN) の核心は、rSCANで導入した「滑らかさ」を維持しつつ、数式に補正項を加えることで、失われた「厳密な拘束条件」を強制的に満たし直す(Restore)点にあります。

(1) 新しい指示子 αˉ\bar{\alpha} の採用#

r²SCANでは、rSCANともSCANとも異なる、新しい正則化された指示子 αˉ\bar{\alpha} を採用します。

αˉ(r)=ττWτunif+ητW\bar{\alpha}(\mathbf{r}) = \frac{\tau - \tau_W}{\tau_{\text{unif}} + \eta \tau_W}

ここで η=103\eta = 10^{-3} です。分母に定数ではなく τW\tau_W を混ぜることで、低密度領域での発散を防ぎつつ、正しいスケーリング則を維持しています。

(2) 交換エネルギー項の補正(GE2Xの復元)#

rSCANで失われた「勾配展開の第2次項(GE2X)」を回復するために、交換エネルギー密度に関わる関数 x(p)x(p) を以下のように修正しました。

x(p)={CηC2xexp[p2/dp4]+μAK}Fx(p) = \left\{ C_\eta C_{2x} \exp[-p^2/d_p^4] + \mu_{AK} \right\}_F

一見複雑ですが、この式の目的はシンプルです。補間関数の αˉ=1\bar{\alpha}=1 における導関数がゼロでないことに起因する「誤った寄与」を、この項が**ちょうど打ち消す(cancel out)**ように係数 C2xC_{2x} 等が決定されています。

(3) 相関エネルギー項の補正(GE2Cの復元)#

相関エネルギーについても同様に、補正項 Δy\Delta y を導入して、勾配展開(GE2C)を復元しています。

g(At2,Δy)=[1+4(At2Δy)]1/4g(At^2, \Delta y) = [1 + 4(At^2 - \Delta y)]^{-1/4}

ここで Δy\Delta y は、αˉ1\bar{\alpha} \to 1 での誤った寄与を相殺するために導入された新しい項です。


まとめ#

r²SCANは、以下のロジックで構築された「いいとこ取り」の汎関数です。

  1. Regularized (正則化): 数値安定性のために、関数を滑らかな多項式にする(→ グリッド問題の解決)。
  2. Restored (復元): 滑らかにしたことで壊れた物理法則(GE2などの勾配展開)を、補正項を加えて人工的に修復する(→ SCAN並みの精度の維持)。

論文中の図(Figure 3など)では、SCANで見られたポテンシャルの激しい振動が、r²SCANでは完全に消えて滑らかになっていることが示されています。これにより、r²SCANは**「SCANの高精度」と「GGAの高速・安定計算」**を両立させることに成功し、現在の標準的なメタGGA汎関数の地位を確立しました。

参考文献#

  • J. W. Furness, A. D. Kaplan, J. Ning, J. P. Perdew, and J. Sun, “Accurate and Numerically Efficient r²SCAN Meta-Generalized Gradient Approximation”, J. Phys. Chem. Lett. 11, 8208–8215 (2020).
【DFT】r²SCANの数理構造:SCANの「数値的不安定性」をどう克服したか?
https://ss0832.github.io/posts/20251228_r2scan-functional-overview-ja/
Author
ss0832
Published at
2025-12-28